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偽りの客と店員――居酒屋で紛れ込んだ恐怖 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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その日は、仕事が少し遅くなり、一人で帰り道にある居酒屋に立ち寄った。軽く食事をして、お酒を一杯飲んで帰ろうという、いつもと変わらない夜の予定だった。

店に入ると、適度に賑わっていて、カウンター席に案内された。私は、料理を注文して、少しお酒を飲みながら、仕事の疲れを癒していた。周りには楽しそうに会話をしているグループや、同じように一人で食事を楽しんでいる客がいて、いつもの居酒屋の雰囲気だった。

料理が運ばれてくると、私は軽く食べて、時々スマホをいじりながらリラックスしていた。お酒も進み、もう少しで帰ろうかと思っていたその時――ふと、店内の空気が変わったことに気がついた。

店内が、急に静まり返っている。さっきまでの賑やかな話し声や笑い声が、すっと消えてしまったような感覚だ。妙な違和感を覚え、周囲を見回してみた。

すると――店内の客や店員が、まるで人間ではないかのように見えた。

「え…?」

一瞬、目を疑った。だが、視界に広がる光景は明らかにおかしい。目の前にいる客たちは、一見すると普通の人間に見えるが、よく見るとその顔は無機質で、生命感がまるでない。焦点が合っていないガラス玉のような目、そして引きつった笑顔――その表情は、まるでロボットが笑顔を模倣しようとして失敗したかのようだった。

「なんだ、これ…」

息が詰まり、心臓がドキドキと鼓動を打ち始めた。彼らは無言で食事をしているが、その動作はどれも不自然で、ぎこちないリズムだった。フォークを口に運ぶ動作さえも、機械のように反復されている。

店員も同様だった。いつも元気に接客をしていた店員たちは、無表情で、焦点の合わない目をして、ただ料理を運んでいる。客とのやりとりもなく、無言のまま、無機質に動き回っている。

「どうしよう…」

私は焦りを感じ、体が硬直してしまった。この異常な状況に、どう対応すればいいのか分からない。ただ、ここから早く出たい――その一心だった。

その時、店の入口が「カラン」と音を立てて開いた。

入ってきたのは、警察官のような制服を着た男だった。彼は店内をぐるりと見渡し、私に目を留めると、ため息をつきながらゆっくりと歩み寄ってきた。

「あー、こんなところにも紛れ込んで…」

彼はぶつぶつとつぶやきながら、私に近づいてきた。そして、混乱している私に向かって、優しく語りかけた。

「もう、ここに来ちゃダメですよ。」

その言葉を聞いた瞬間――まるで時間が巻き戻されたかのように、店内の雰囲気が一変した。

先ほどまでの無機質な客たちや店員は、再び普通の人間に戻っていた。賑やかな話し声や笑い声が店内に戻り、活気がよみがえった。驚いてテーブルを見ると、さっき食べ終わったはずの料理が、まるで手をつけていないかのようにきれいに並んでいた。飲み終わったはずのお酒も、まだグラスにたっぷりと残っている。

「なんだ…これは…?」

私は混乱し、全身に冷や汗が流れた。この場所にいるのが怖くなり、なんとか理由をつけて早く立ち去らなければと思った。

慌てて立ち上がり、店員には急用を思い出したとことわり、会計を済ませると、急いで店を出た。外に出ると、冷たい夜風が顔に当たり、少しだけ現実感が戻ってきた。

「一体…何だったんだ…」

私の頭の中は混乱していたが、恐怖感だけは鮮明に残っていた。足早に歩き、家路を急ごうとしたその時、背後から店員の声が聞こえてきた。

「ありがとうございました。また、お待ちしております!」

その瞬間――再び、奇妙な違和感が押し寄せた。振り返ると、店の入口に立っている店員が、またあの無機質な表情をしていた。彼の目はガラス玉のようで、焦点が合っていない。引きつった笑顔が浮かんでいる。

「ォ……タァァ……アァ……」

その店員が、意味のない音を発しながら、ぎこちなく手を振っているのを見て、全身が凍りついた。

私は思わず目を閉じ、深呼吸をした。そして再び目を開けると――普通の店員が、笑顔で手を振りながら「ありがとうございました」と言っているのが見えた。

「気のせいだったのか…?」

恐怖を振り払おうとしながら、私は歩き始めたが、頭の中ではあの異様な光景がこびりついて離れなかった。

店から遠ざかると、少しだけ心が落ち着いたが、あの無機質な表情や意味を成さない声が脳裏に残り、次第に寒気が増してきた。

「もう、あの店には行けない…」

そう強く思いながら、私は家路を急いだ。

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