その夜、私は久しぶりに一人で外食することにした。仕事が一段落して、少しリラックスしたい気分だった。家に帰る前に軽く食事とお酒を楽しもうと思い、いつも通りの居酒屋に足を運んだ。
店に入ると、いつも通りの賑やかな雰囲気が広がっていた。カウンターに案内され、私はメニューを見ながら適当に料理を注文した。店内の客たちは皆、楽しそうに飲んだり食べたりしている。店員も活気があり、てきぱきと動き回っていた。
「とりあえずビールで…」
冷たいビールが運ばれてくると、私は仕事の疲れを忘れようとグラスを一気に飲み干し、注文した料理が来るのを待った。
しばらくすると、料理がテーブルに並べられた。焼き鳥にサラダ、少し贅沢に頼んだ刺身も。どれも美味しそうで、私はゆっくりと食べ始めた。お酒も進み、少し酔いが回ってくると、次第に気分もリラックスしてきた。
「いい夜だな…」
しかし、料理が半分ほどなくなった頃、ふと店内の雰囲気が変わったことに気づいた。
周囲を見回すと、店内が異様に静かになっていた。先ほどまでの賑やかさはどこへ消えたのか、客たちはみな無言で、ただ黙々と食事をしている。私の周囲には、なんとも言えない重苦しい空気が漂っていた。
「え…?」
何かがおかしいと感じた。目の前のテーブルに座っている客の表情に気づいた瞬間、全身に寒気が走った。
彼の目は、まるで焦点が合っていない。ガラス玉のように無機質で、どこを見ているのか分からない。そして口元には、引きつったような笑みが浮かんでいた。その笑顔は、不自然で、人間らしさがまるで感じられなかった。
「なんだ、これ…」
周りを見渡すと、他の客たちも同じだった。みな無表情で、焦点の定まらない目をして、引きつった笑顔を浮かべている。動作もぎこちなく、まるで何かに操られているかのように同じ動きを繰り返していた。
「オォ……アァ…」
隣のテーブルの男が突然つぶやいた。だが、その声は感情がこもっていない。口元だけが笑っているが、声には温度がなく、ただ機械的に言葉にならない言葉を繰り返しているだけだ。
「何なんだ…ここ…」
私は恐怖を感じ、体が震え始めた。店員たちも、同じように無表情で、無機質な目をしている。料理を運んでいる姿さえも、どこかぎこちなく、普通の店員ではないと直感的に感じた。
その時、店の入口が「カラン」と音を立てて開いた。
入ってきたのは、警察官のような制服を着た男だった。彼は店内をぐるりと見渡し、私に目を留めると、ため息をつきながら歩み寄ってきた。
「あー、またこんなところに紛れ込んでしまったのか…」
彼は私に視線を向け、ぶつぶつとつぶやきながら近づいてきた。そして、混乱している私に向かって、優しい声で言った。
「もう、ここに来ちゃダメですよ。」
その瞬間――まるで店内全体がふっと元の世界に戻ったように感じた。
賑やかな話し声が再び耳に入り、周囲の客たちは普通に会話をしていた。無表情だった店員たちも、再び活気ある接客をしている。驚いてテーブルを見た。さっき食べ終わったはずの料理が、きれいに盛り付けられたまま残っている。飲み終わったはずのグラスにも、お酒がなみなみと注がれていた。
「一体…何だったんだ…」
全身が冷や汗で湿っている。恐怖と混乱が入り交じり、ここから早く出なければという気持ちが急に湧き上がってきた。
「急用を思い出した…」
そう言い訳をして、私は慌てて会計を済ませ、店を出た。外に出た瞬間、夜風が吹き抜けて、少しだけ現実感が戻った。
「何だったんだ、今のは…」
頭の中は混乱したままだが、何とか店から離れなければならないという強烈な恐怖心が私を突き動かしていた。しばらく歩いていると、背後から店員の声が聞こえた。
「ありがとうございました。また、お待ちしております!」
その声に違和感を覚え、思わず振り返ると――店の入口に立っていた店員が、無表情のまま、焦点の合わない目でこちらをじっと見つめていた。彼の口元には引きつった笑みが浮かび、ガラス玉のような目が不気味に光っている。
「オォ……アァ……」
意味のない言葉が彼の口から漏れた。
全身に鳥肌が立ち、心臓がバクバクと鳴り始めた。思わず目を閉じ、深呼吸をした。そして、再び目を開けると――そこには、普通の店員が立っていた。笑顔で、手を振りながら「ありがとうございました」と言っている。
「気のせいだったのか…?」
自分にそう言い聞かせながらも、心の底に恐怖が残っていた。あの無機質な表情、焦点の合わない目――すべてが現実ではないようで、しかし現実の一部のようにも感じられた。
恐怖に支配されたまま、私は足早に家路を急いだ。
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