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無機質な笑顔の配達員――届けられた恐怖 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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その日、私はいつもと変わらない日常を過ごしていた。仕事を終えて家に帰り、テレビを見ながらリラックスしていた時、ふいに玄関のチャイムが鳴った。

「ピンポーン」

不思議に思いながら玄関に向かう。特に荷物を頼んだ覚えはないし、時間もすでに夜遅い。それでも、もしかしたら間違って届いたのかもしれないと思い、ドアを開けた。

そこには、一人の配達員が立っていた。黒い帽子に制服を着て、胸元には配達会社のロゴがついている。しかし、その配達員を見た瞬間、何とも言えない不気味な違和感が体を襲った。

彼の顔――そこには生命感がなかった。

目は焦点が合わず、ガラス玉のように無機質。どこを見ているのか分からない。口元には微かに笑みが浮かんでいるが、それはまるでロボットが笑顔を模倣しようとして失敗したかのような、不自然でぎこちないものだった。

「……」

配達員は無言のまま、じっとこちらを見つめている。その姿に圧倒され、私は戸惑いながらも、恐る恐る声をかけた。

「あの…荷物ですか?」

しかし、返事はない。配達員は無表情のまま、何も言わずに立っているだけだ。私は少し気味が悪くなりながらも、再度確認しようとした。

「何か届け物ですか? 注文した覚えはないんですが…」

その瞬間、配達員がゆっくりと口を開いた。だが、その言葉は普通ではなかった。

「ォ……アァ……ェェェ……」

出てきたのは、理解できない音の羅列だった。まるで言葉のようでいて、全く意味を成さない。ただの音――いや、まるで日本語を知っているが使い方を理解していない何者かが、無理やり会話を模倣しているかのような、奇妙で不気味な声だった。

「オ……ェェ……タ……ァ……」

私は背筋が凍りつき、一瞬で恐怖に包まれた。その「声」は、どう聞いても人間のものではなかった。何か異質な存在が、無理やり人間の形をとっているような、そんな感覚が拭えない。

「こ、これは…なんなんだ…」

動けない私に対して、配達員は再びゆっくりと口を動かしたが、その表情には依然として生命感がない。笑顔は引きつったまま、ガラス玉のような無機質な目が私を見つめ続けていた。

「ォ……タァァ……ア……」

恐怖のあまり、私はドアを閉めようとした。しかし、その瞬間、配達員がすっと一歩前に出た。動きが妙に滑らかで、人間らしさが欠けていた。その姿がさらに不気味さを増幅させ、私は咄嗟にドアを強く閉じ、鍵をかけた。

心臓が激しく鼓動し、全身に冷たい汗が流れた。息を整えようとしても、恐怖でうまく呼吸ができない。ドアの向こうには、まだあの配達員がいるはずだ。

「何なんだ…あれは…?」

しばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて玄関の向こうからは何の気配も感じなくなった。ゆっくりとドアの覗き穴から外を確認すると、配達員は消えていた。

「……いない」

その場にへたり込んで安堵するも、心のどこかでまだ恐怖が残っていた。夢か現実か分からないような出来事だったが、確かにあの異様な「人間」がここにいたのだ。

次の日、確認のために配達会社に問い合わせをしてみたが、配達員を送った事実はないと言われた。あの男が一体何者だったのか、そして何を届けようとしていたのか――

それは、今でも謎のままだ。



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