私は学校の用務員として働いているんですが、日々の掃除や設備の管理のほかに、校庭の花壇の手入れも任されています。花壇は、校門の近くにあり、生徒たちが登校するときにまず目にする場所なので、いつもきれいにしておきたいと思って、季節ごとに花を植え替えたり、雑草を抜いたりしています。
実は、その花壇にまつわるちょっとした不思議な話があるんです。
それは、数年前の春のことでした。ちょうど、冬の花が終わり、新しい花を植え替える準備をしていた頃でした。私はいつものように、スコップを持って土を掘り返し、新しい苗を植えようとしていました。その時、ふと、まだ何も植えていないはずの場所に、ぽつんと一輪の小さな花が咲いているのに気づいたんです。
「おかしいな…こんな花、植えた覚えはないぞ…?」
その花は、淡い青紫色をしていて、見たことのない種類でした。私は学校の花壇に植える花の種類をいつも自分で選んでいるので、どんな花が咲くかは把握しているはずなんですが、その花だけはどうしても見覚えがありませんでした。花びらは細かく、少しフワッとした印象で、まるで空気の中に溶け込むような儚さがありました。
「誰かが勝手に植えたのか…?」
そう思って、一旦はそのままにしておきました。その日は特に気にせず、新しい花を植えて作業を終えました。しかし、数日後、また同じ場所を見てみると、驚いたことに、その青紫色の花が増えていたんです。最初は一輪だけだったのに、今では二輪、三輪と花が咲き始めていました。
「これ、何の花なんだ?」
不思議に思った私は、花の図鑑で調べてみたり、ネットで似たような花を探してみたんですが、どうしてもその花の正体が分かりませんでした。生徒や先生たちにも聞いてみましたが、誰も知らないと言います。
それからというもの、私は花壇の手入れをするたびに、その青紫の花が少しずつ増えていくのを見守るようになりました。特に害があるわけでもなく、むしろ花壇全体の雰囲気を引き立ててくれていたので、そのまま咲かせておくことにしたんです。
でも、ひとつだけ妙なことがありました。
その花は、季節に関係なく咲き続けたんです。普通の花は、季節が変われば枯れたり咲いたりを繰り返しますよね? でも、この青紫の花だけは、夏になっても、秋になっても、冬になっても、ずっと同じ姿で咲き続けていたんです。
「本当に不思議な花だな…」
何度かその花を抜いてみようかと思いましたが、なぜか抜く気になれませんでした。むしろ、その花を見ると、心が少しだけ安らぐような気がして、手を出すことができなかったんです。
そして、そのまま時間が過ぎ、ある日のこと。
その日は少し雨が降っていて、校庭の花壇の様子を見に行くと――あの青紫の花が、全部消えてしまっていたんです。一本残らず。まるで、最初からそこに咲いていなかったかのように。
「どういうことだ…?」
驚いて周囲を見回しましたが、土の上には花びらの一片も残っていません。あの花たちは、ただ消えてしまったんです。
あの花が何だったのか、今でも分かりません。花壇にはそれ以来、同じ花が咲くことはありませんでした。まるで幻のように現れ、消えてしまったようです。
でも、その花を見ていた間、私は不思議と心が穏やかになっていたのを覚えています。何かを伝えたかったのか、それともただ私たちに美しい景色を見せてくれたのか――それは謎のままですが、あの花が咲いていた花壇を通るたび、私は今でもあの青紫の花を思い出します。
それは、小さな、でも確かに存在していた不思議な花の物語です。
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