小学生だった頃、僕は毎日、学校が終わるとバスに乗って帰っていた。バス通学の子たちと一緒に、いつも乗るバスは家までの一番の楽しみだった。友達とふざけたり、学校の話をしたり、普段の疲れを忘れさせてくれる時間だ。
その日も、いつもと同じように放課後のバスに乗り込んだ。僕の隣には親友のタカシが座っていた。タカシとは幼稚園の頃からの仲で、同じバス通学ということもあって、帰りのバスではいつも二人で座っていた。
バスには他にも、僕たちと同じ小学校から帰る子供たちがたくさん乗っていた。みんな学校の出来事を楽しそうに話していて、バスの中はいつも通りのにぎやかさだった。バスはしばらくいつも通りの道を進み、僕たちは、窓の外を流れる景色をぼんやり眺めながら、タカシと昨日のテレビ番組の話をしていた。
しかし、しばらくすると、タカシがふと窓の外をじっと見つめ、眉をひそめた。
「なあ、ユウタ。外の景色、なんか変じゃないか?」
僕は彼の指摘に少し驚きながらも、窓の外に目を向けた。
最初に気づいたのは、家の形だった。普通の住宅街のはずが、見慣れない不自然な建物が並んでいる。家が異様に細長かったり、屋根が逆に反り返っていたり、まるで歪んだ絵本の中に迷い込んだかのようだった。
さらに、歩いている「人」たちも、どこか異様だった。人の形をしてはいるものの、普通じゃない。背が異常に高い人、逆に異常に背の低い人。手足だけが不自然に長い人もいれば、顔が異様に大きい人もいた。あるいは、身体全体が関節の外れたようにくねくねと動いていて、まるでタコのようにフラフラと歩いている人。
僕はその異様な光景に目を見張り、タカシも同じく驚いた様子だった。
「何だ、これ…?」
タカシが小さな声でつぶやく。僕もどう反応していいのかわからず、ただ窓の外の異様な風景に釘付けになった。
バスは、あの奇妙な街並みを通り過ぎていく。その間、僕たちはただただ圧倒されていた。後ろに座っている他の小学生たちもざわつき始め、怖がっている様子だった。誰も、この不気味な風景が何なのか理解できていないようで、みんな口々に「おかしい」「怖い」と話している。
「こんな街、通ったことないよな…?」
僕はタカシにそう言いながら、自分の目を疑った。でも、確かに今見えているこの景色は現実だ。車道の脇に立つあの歪んだ建物たち、そしてくねくねと異様な動きをする人たち。まるで異世界に迷い込んだかのような感覚が、僕を包み込んだ。
しばらくすると、突然、バスの進む道の先に、とても眩しい光が現れた。まるで強烈な太陽光が一点に集中しているかのように、目を開けていられないほど眩しかった。
「目、閉じろ!」
タカシが叫んだ。僕もすぐに目をぎゅっと閉じた。バスはその光に向かって進んでいるようで、まぶしさがどんどん強くなる。何が起こっているのか全くわからなかったけれど、その光が近づくにつれて不安と恐怖が募った。
しばらくそのまま目を閉じていたが、光が徐々に弱まり、ついには完全に消えた。
「もういいかも…」
タカシの言葉で、僕は恐る恐る目を開けた。すると、そこには見慣れた風景が広がっていた。いつもの住宅街、見慣れた商店街、そして歩いている普通の人たち。
「あれ…?元に戻ってる…」
バスは何事もなかったかのように、いつもの道を走っていた。さっきまでの異様な景色はまるで幻だったかのように消えていた。僕は周りの子供たちの様子を確認したが、誰も先ほどの異様な景色のことを話していなかった。むしろ、みんな普通におしゃべりしたり、スマホでゲームをしていたり、さっきの恐怖なんてまるでなかったかのように過ごしていた。
「さっきの…夢じゃないよな?」
僕はタカシに囁いた。
「いや、確かに見たよ。あの変な街も、人たちも…」
タカシも困惑した表情を浮かべながら言った。どうやら、あの奇妙な光景を覚えているのは僕たち二人だけだった。
バスはやがて僕たちのバス停に到着し、僕とタカシはそそくさと降りた。何事もなかったかのようにバスは走り去っていったが、僕たちはずっとあの異様な景色について話し続けていた。
「あれって何だったんだろうな…」
「わからない。でも、確かに見たよな?」
大人になった今でも、僕とタカシは親友だ。たまに集まって話をするとき、あの時バスの中で見た異様な風景の話になることがある。何だったのか、今でもわからないけれど、確かにあの夕方、僕たちは一緒に異世界を垣間見たのだ。
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