その日は、普段と何も変わらない通勤帰りの夕方だった。自宅への道をいつものように歩いていると、突然周囲が異様なピンク色に染まり始めた。何かがおかしいと感じて立ち止まり、空を見上げると、そこには信じられない光景が広がっていた。
空全体が淡いピンク色に覆われており、太陽は一つではなかった。小さな太陽が十数個、あちこちに浮かんでいる。まるで子どもの描いた絵のように、ランダムに配置された光の球が、同じ強さで輝いているのだ。
「なんだ、これは…?」
僕は目をこすり、もう一度周囲を確認するが、現実感はない。それでも景色は変わらず、周りの建物や木々までもが淡くピンクに染まり、どこか夢の中にいるような感覚に包まれた。
道を戻ろうと振り返るが、いつもの道は消え、そこには奇妙にねじれた建物や見知らぬ風景が広がっていた。まるで、自分がまったく別の世界に迷い込んでしまったかのようだった。
「どうして…?」
その瞬間、遠くから奇妙な音が響いてきた。低いうなり声のようなものと、何かが空を割るような音。音の方に視線を向けると、空を覆うピンクの雲の中から、何か巨大なものがゆっくりと浮かび上がってくるのが見えた。
それは鳥のようでもあり、魚のようでもある奇怪な形の生き物だった。体は半透明で、ピンク色の空を背景にぼんやりと浮かんでいる。その生き物は空中を漂いながら、複数の太陽の間をゆっくりと移動していた。
息を飲み、足が自然と後退する。だが、足元の地面すらも奇妙だった。柔らかくて弾むような感触。まるでスポンジの上を歩いているかのようで、現実味がない。
「ここから出なきゃ…」
急に恐怖が押し寄せ、無我夢中で足を動かし始めた。どこに向かえばいいのかもわからないまま、ただ走り続ける。しかし、何も変わらない風景が延々と続いていた。
そのとき、ふと遠くに何かの建物が見えた。奇妙な形をした塔のようなもので、空に向かって伸びていた。何か手がかりになるかもしれないと思い、その方向に向かって走った。
近づくにつれ、その塔はさらに異様な姿をしていることがわかった。表面はピンク色の霧に包まれ、壁には無数の小さな穴が開いている。塔からは不気味な振動音が鳴り響いていて、まるで生き物が苦しんでいるかのようだった。
「一体…何なんだ?」
塔に近づくと、足元が急に沈み込んだ。見下ろすと、地面が徐々に崩れていき、何かが下から湧き出てくる。ピンク色の液体が地面を覆い、じわじわと僕に迫ってきた。慌てて後退しようとするが、足が粘つくような感触に絡め取られ、動けなくなってしまった。
「逃げなきゃ…!」
必死にもがく中、空に浮かぶ複数の太陽が不規則に瞬き始めた。光が強くなったかと思うと、一斉に光が弾け、空がさらに鮮やかなピンクに染まる。そして、その瞬間、何かが僕を引き込むような感覚に襲われた。
気づけば、僕は塔の中にいた。どこから入ったのかもわからない。内部は異様に暗く、湿った空気が充満していた。壁には無数の目が浮かび上がり、じっと僕を見つめている。逃げるべきだと頭ではわかっているが、足は動かない。
そして、耳元で囁き声が聞こえた。
「もう逃げられない…」
その声は異様に冷たく、背筋が凍る感覚が広がった。僕はもうここから逃げることはできないと、その瞬間悟った。
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