その日は、いつもと違う道を歩いていた。軽いハイキングのつもりで、人気のない山道を選んだのだ。深い緑に囲まれ、木々のざわめきだけが響く静寂な空間に、自然と心が落ち着く。
しかし、ある地点で妙なことに気づいた。森の中に不自然な静けさが漂っていた。鳥の鳴き声が一切聞こえない。葉の揺れる音すら、異様に遠い。風すら止まってしまったような感覚に、足が自然と重くなる。
歩き続けると、さらに奇妙なことが起こった。森の木々が徐々に異様な形に変わっていったのだ。幹がねじれ、枝はまるで意図的に絡み合っているようで、自然なものとは思えなかった。空は赤みを帯び、日が沈む気配がない不気味な世界に僕は迷い込んでいた。
「おかしいな…」
引き返そうとしたが、すでに元の道はどこにもなかった。ただ、同じように不気味な木々がどこまでも続いている。焦燥感が胸を締め付け、早足で森を抜けようとしたその時、奇妙な音が耳に飛び込んできた。
「ピイ…ピピッ…」
森の奥から、鳥の鳴き声のようなものが聞こえた。しかし、それは普通の鳥ではなかった。声は異様に歪んでいて、不協和音のように耳に残る。音の方向に視線を向けると、そこにいたのは巨大な鳥のような生物だった。
だが、それは明らかに「鳥」と呼ぶには異様すぎた。体は黒い羽毛に覆われているが、羽は骨のように硬く、まるで何かの機械を思わせる。その頭部は奇妙に曲がっていて、まるで金属でできた仮面をかぶっているかのような不気味さだった。目は大きく、何も映していないような空虚な光を放っていた。
「なんだ…あれは?」
その異形の鳥が僕をじっと見つめていた。全身に冷たい汗が流れ、すぐにその場を離れようとしたが、鳥は翼を広げて僕の頭上を旋回し始めた。羽音が妙に鋭く、耳障りな金属音が響く。
その時、さらに奥から別の生き物の気配がした。低い唸り声とともに現れたのは、まるで犬のような体つきをした動物だが、その顔は異様に歪んでいた。口は異常に広く、まるで裂けたかのように口角が耳元まで伸びている。目は二つではなく、額や顎にまで無数の目が付いていた。
その生物が僕に向かってゆっくりと近づいてきた。口を開け、牙が見える。全身の毛が逆立ち、体が硬直したまま、どうすることもできない。頭の中では「逃げろ」という声が響くが、体はまったく言うことを聞かない。
「ガアッ!」
突如、その犬のような生物が吠え声を上げ、僕に飛びかかろうとした瞬間、足元がぐらりと揺れた。地面が裂け、僕は何かに引き込まれるようにして、黒い穴の中に落ちていった。
暗闇の中、意識が遠のいていく。気づけば、僕は静かな森の中に横たわっていた。だが、その森は先ほどの不気味な異世界の森ではなく、いつもの自然な風景だった。
「夢…だったのか?」
体を起こし、辺りを見回すが、何もおかしいところはない。いつもの森、いつものハイキングコースだ。安堵のため息をつき、僕は急いで山を下りた。
だが、家に戻ってからふと気づいた。手の甲に、何かの羽毛がくっついている。それは、あの異様な鳥の羽とまったく同じ黒い色をしていた。
僕はその羽毛を、恐る恐る手から払ったが、心の中には不安が消えることなく残り続けていた。あの奇妙な世界は本当にただの夢だったのか、それともまだどこかで僕を待っているのか──。
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