ある日の仕事帰り、日常の喧騒から離れたいと思い、ふと見つけた山道を散歩していた。日が暮れ始め、薄暗い林の中を進んでいると、周囲の風景が次第に変わっていった。
空が不自然に緑色を帯び、太陽は薄い光を放つだけで、まるで違う世界に迷い込んだようだった。あたり一面、どこまでも続く木々が薄気味悪いほど静かで、葉は濃い青緑色に染まり、風すら止まったような異様な空気が漂っていた。
「なんだ、この空…」
不安に駆られながらも、戻る道が見つからず、歩き続けるしかなかった。木々の隙間から見える空は、さらに深い緑色へと変わり、まるで何か巨大なものが空全体を覆っているかのような重圧感を感じた。
ふと、遠くで何かが動く気配がした。そちらに目を向けると、そこには信じがたい光景が広がっていた。空中に浮かぶ、巨大な緑色の雲のような生物がゆっくりと移動していたのだ。形は曖昧で、まるで何かが霧の中から浮かび上がってきたかのような存在感。生物が放つ光が木々を緑色に染め、その下に影を作り出している。
「何だ、あれは…?」
僕は立ち尽くし、ただその異様な光景に目を奪われた。生物は音を立てずに滑るように移動し、その巨大な影は不自然に広がり、地面を覆い隠していく。あまりにも静かで、不気味な光景に、全身が硬直した。
それでも歩き続けなければならないと自分に言い聞かせ、前に進むと、さらに奇妙なものに出くわした。木の根元に、小さな建物があった。壊れかけの祠のようなもので、周囲の空気とは全く違う冷たい気配が漂っていた。
「ここは…」
祠の中を覗き込むと、そこには奇妙な石像が置かれていた。人間の形をしているが、体の部分部分が植物で覆われている。顔には奇妙な表情が刻まれており、まるで何かを苦しんでいるようだった。しかも、その石像の手には生きた植物の蔓が巻きついていて、今も成長しているかのようだった。
足元の土が動き出し、突然、地面から何かが伸びてきた。緑色の蔓が自分の足に絡みつき、引き寄せられるように地面へと引き込まれていく。慌てて足を振り払おうとするが、蔓は異様に強く、どんどん締め付けてくる。
「くっ…離せ!」
必死に抗う中、耳元でかすかな囁き声が聞こえた。
「この地は、お前を迎え入れる」
その瞬間、蔓はふっと消えた。しかし、その声はまだ空気中に漂い、どこかから僕を見つめているような感覚が残る。慌てて周りを見回すと、空はさらに暗い緑に染まり、何かが近づいてくる気配が強まっていた。
逃げなければならない。そう感じて走り出したが、足元が次第に重くなっていく。木々の間から何かの影が見え隠れし、先ほどの巨大な雲のような生物が再び頭上を通り過ぎた。
「ここから出られないのか…」
希望が薄れ、息が上がる中、前方にわずかな光が見えた。そこには、ぽっかりと穴が開いたように明るい場所が広がっていた。藁にもすがる思いでその光に向かって走り続けた。
その光を抜けた瞬間、僕は森の入り口に戻っていた。空は元の青空に戻り、木々も通常の緑に戻っていた。しかし、あの異様な緑色の空の光景は、鮮明に頭の中に焼きついていた。
「本当にあれは現実だったのか?」
不安に駆られながら、家に向かう道を歩き続けた。だが、ふと空を見上げると、一瞬だけ、あの緑色の光が遠くに輝いていた気がした。
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