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名前を呼ぶ声:耳元で囁く見えない存在 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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深夜に聞こえる名前を呼ぶ声…耳元で囁く謎の存在がもたらす恐怖とは?

それは、静かな夜のことだった。日々の疲れを癒やすため、私は早めにベッドに入り、寝る準備をしていた。部屋の中は暗く、カーテン越しに街灯の明かりがほんの少し差し込んでいる。時計を見ると、深夜1時を過ぎていた。

布団にくるまりながら、すぐに眠りにつけると思っていたが、なぜかその夜は寝つけなかった。頭の中はぼんやりとしているのに、何かが心に引っかかっているような、落ち着かない感覚があった。

耳元には外の車の音や、かすかに風が窓を揺らす音が聞こえるだけ。いつもなら、これらの音に囲まれて自然に眠りにつくのだが、今夜は違った。

布団に包まれたまま、ぼんやりと天井を見つめていた時だった。

「…タカシ…」

その瞬間、心臓が一瞬止まったような感覚に襲われた。今、確かに誰かが私の名前を呼んだのだ。しかも、その声はすぐ耳元で聞こえたように感じた。

「…誰…だ?」

思わず口に出したが、部屋は暗く、誰かがいる気配もない。両親はもう寝ているし、妹の部屋も遠い。私の名前を呼ぶはずがない。

再び布団に包まれ、目を閉じようとしたが、今度はさらに明瞭にその声が聞こえた。

「タカシ…」

耳元でささやくかのようなその声は、冷たい空気と共に私の全身を覆った。布団の中でも寒気がして、手足が冷たくなっていく。誰かがすぐそこにいて、私の名前を囁いている。

「おかしい…誰もいないはずだ…」

私は恐る恐る起き上がり、部屋の中を見渡したが、やはり誰もいない。窓は閉まっていて、カーテンも揺れていない。自分の耳がおかしくなったのかと思い、再び布団に戻ることにしたが、再びその声が耳元で囁かれた。

「…タカシ…」

今度は、明らかに私の名前を呼んでいる。しかも、すぐそばから聞こえる。まるで誰かが私の耳元で囁いているように。

恐怖が全身を覆い、私は思わず布団を頭までかぶって体を縮こませた。目を閉じ、耳をふさいでも、その声が頭の中に響くように聞こえてくる。

「タカシ…タカシ…」

声は徐々に近づき、私の耳元に迫ってくる感覚があった。体が硬直し、動くことができない。何かがこの部屋にいて、私を見つめている。その存在感がますます強くなっていく。

「…タカシ…こっちだよ…」

声は私を呼び続ける。だが、何も見えない。ただ、声だけが、繰り返し私の名前を囁いてくるのだ。

その時、突然部屋の外から何かが動く音が聞こえた。ガタガタと音を立てながら、廊下を何かが歩いている。その音は、私の部屋の前で止まった。

ドアを叩く音がした。

「タカシ…」

今度は、ドアの向こうからその声が聞こえた。ゆっくりと、ドアノブが回る音が響く。私はもう、何もできなかった。恐怖で動けず、ただその音に耳をすますしかなかった。

ガチャリとドアが少し開く音がした。私は、もうそれ以上聞きたくなかった。全身が硬直し、心臓の鼓動が耳の奥で大きく響く。

だが、ドアが開く気配はなかった。

一瞬、静寂が訪れた。

「タカシ…」

今度は耳元で、もう一度囁かれた。

その瞬間、私は耐え切れず、ベッドから飛び起き、電気をつけた。部屋は明るくなり、再び静寂が訪れた。ドアは閉まったままで、誰もいない。

私は何度も深呼吸をして、ようやく落ち着いた。だが、耳の奥に残るあの囁き声は、今でも鮮明に記憶に残っている。

次の朝、私は家族にその話をしたが、誰も信じてくれなかった。両親も妹も、誰も私の部屋の前を通った覚えはないと言う。もちろん、夜中に私の名前を呼んだ人もいない。

それ以来、私はあの夜のことを忘れようと努力したが、夜になると時折あの声が頭に響くような気がして、今も眠ることができない。あれは一体誰だったのか。なぜ私の名前を呼んでいたのか。

その答えを知ることは、まだできていない。



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