大学時代、私は友人のユウとよくつるんでいた。ユウは昔から「ちょっと霊感がある」と自称していたが、普段はそんな素振りを見せることもなく、冗談交じりに言う程度だった。私は霊的なものを信じていなかったので、彼が時折言う「見える」という話も、あまり真剣に聞いていなかった。
そんなユウと、夏の夜にドライブをしていた時のことだ。時間はすでに深夜に差し掛かり、山道を走っていた。周囲には人気もなく、車のライトだけが道を照らしていた。目的地も特に決めず、ただ適当にドライブしていただけだったが、突然ユウが助手席で小さく「やばいな…」とつぶやいた。
「ん?どうした?」私は彼の言葉に気づき、何気なく聞き返した。普段のユウなら、何か怖がらせようとしてふざけた冗談でも言うところだが、今夜はその声に違和感があった。
ユウは少し緊張したような表情をして、窓の外をじっと見つめていた。そして、静かに「少しスピード落としてくれ」と言った。
いつもとは違う真剣な口調に、私も思わず緊張が走った。彼は何も説明しなかったが、私は言われた通りにスピードを落とし、慎重に車を進めた。
しばらく走っていると、道端に古びたトンネルが見えてきた。車がそのトンネルに近づくと、ユウがさらに小さな声で言った。
「ここ、マジでやばい場所だな。行くのやめた方がいい…」
彼が真剣に「やばい」と言ったのは初めてだった。冗談ではない、本物の恐怖を感じているようだった。私も少し動揺し、「引き返そうか?」と提案したが、ユウは静かに首を振った。
「いや、今戻るのも逆に良くないかもな…。もう少し進んでみて。」
不安に駆られながらも、私はそのままトンネルに進むことにした。トンネルに入ると、車のライトが古びた壁を照らし出し、湿った空気が車内に入り込んできた。昼間なら何てことのない場所だったかもしれないが、深夜のその空間は異様なまでに不気味だった。
その時、車の前方に小さな影が動いたように見えた。
「今、見えた?」私は思わずユウに聞いた。だが、彼は答えず、ただじっと前方を睨んでいる。
「何かいるのか?」私は少し焦って声を荒げたが、ユウは静かに言った。
「…何か、いる。」
彼の言葉が耳に入った瞬間、車内の空気が一気に重くなったように感じた。エアコンを切っているはずなのに、背中を冷たい汗が伝う。視界の先に何かがいるのを感じたが、はっきりとは見えなかった。
「進んでいいのか?」私は再び確認したが、ユウは固まったままだ。彼がしばらく無言だったので、私は車を停めた。その瞬間、突然車のライトが不意にチカチカと点滅し始めた。
「やばい…やばい、ここは本当にまずい」
ユウが急に叫ぶように言い、私にハンドルを握り直すよう指示した。彼の表情は恐怖に歪んでいた。
「すぐに車を出せ!ここは普通じゃない!」
私は急いでアクセルを踏み、トンネルを一気に抜けようとした。ライトはまだ点滅を繰り返していたが、前方に光が見えた瞬間、私たちは何とかトンネルを抜け出した。外に出た瞬間、車のライトは正常に戻り、重苦しい空気が少しずつ薄れていった。
「今の、何だったんだ?」私は汗だくになりながらユウに聞いたが、彼は黙ったまま、後部座席の方をじっと見つめていた。
「…もう大丈夫だ。何とか振り切ったみたいだな。」
「振り切ったって、何が?」
ユウはしばらく黙っていたが、ようやく口を開いた。
「後部座席にずっと『何か』が座ってた。お前には見えなかったかもしれないけど、トンネルに入った瞬間からずっとだ。」
「冗談だろ?」
「冗談ならいいけどさ。マジであのトンネル、何かいるから。もう二度と通らない方がいい。」
その言葉を聞いて、私は全身に鳥肌が立った。後部座席を確認したが、もちろん誰もいなかった。それでも、背後に感じた視線が忘れられない。
それ以来、あのトンネルの近くを通ることはない。ユウがあの時何を見たのか、彼が具体的に話すことはなかったが、あの夜の恐怖は今でも鮮明に覚えている。
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