放課後、教室に残った数人のクラスメイトたちは、いつものように雑談をしていた。もうすぐ夏休みということもあり、話題は自然と肝試しのような怖い話に移っていった。
「なあ、今夜心霊スポットに行ってみないか?」クラスのムードメーカーのヒロトが提案した。彼はいつも無茶な提案をしてクラスメイトを笑わせるが、この日もそれは変わらなかった。
「今話題のあの廃トンネル、かなりやばいらしいぞ。夜中に入るとさ、必ず何かを見たり、感じたりするって噂だ。」
他のクラスメイトたちは興奮気味に盛り上がり始めた。
「マジで?怖いもの見たさで行ってみたいな!」
「ちょっと怖いけど、楽しそうだよね。」
そんな中、一人だけ黙って話を聞いている少女がいた。ミサキだ。彼女は霊感が強いことで知られていたが、その力を自慢することもなく、むしろ普段はその話題を避けるようにしていた。けれど、この時ばかりは黙っていられなかった。
「やめた方がいいよ。あの場所、本当に危ないから。」ミサキが静かに口を開くと、教室の雰囲気が一瞬変わった。
ヒロトは笑いながら振り向いた。「おいおい、ミサキ。霊感があるって言うけど、そんなに本気にするなよ。みんなで行けば大丈夫だろ?」
しかし、ミサキの顔は真剣そのものだった。
「以前に、あのトンネルに行った人がいて…その人、帰ってきてからおかしくなったの。最初はただ怖がっていただけみたいだったけど、何日か経ってから体調を崩して、最後には部屋から出てこなくなったって話を聞いた。その人がトンネルの中で何を見たのか、誰にも言わなかったけど、何かを連れて帰ってきたのは確かだって…」
教室はシーンと静まり返った。誰もがミサキの言葉を聞き、少し怯えたようだった。しかし、ヒロトはなおも強気だった。
「そんなのただの噂だろ?そもそも、俺たちに何かあったら、すぐに引き返せばいいだけの話だ。」
他のクラスメイトたちも次第に笑顔を取り戻し、ヒロトに賛同した。ミサキはそれ以上何も言わなかったが、彼女の心には不安が残っていた。彼らがこの警告を無視していることが、後々どれほどの恐怖を招くことになるのか、彼女には薄々わかっていたのだ。
その夜、ミサキを除いた数人のクラスメイトたちは、例の廃トンネルに向かった。月明かりだけが彼らを照らし、トンネルの入り口は黒い口を開けて彼らを待っていた。
トンネル内はひんやりとしており、足音がこだまする。そのうち、何か不気味な気配を感じ始めたのか、仲間の一人が「寒気がする」と呟いたが、誰も本気で気にしなかった。
しかし、次の日、教室で彼らは昨夜の冒険を面白おかしく語り出した。
「マジで怖かったよ!途中で風が吹いてきて、何か人影みたいなのが見えたんだ。でも、結局何も起こらなかったし、幽霊なんていないよな!」
ヒロトも笑いながら、「まあ、ミサキが言ってたことは大げさだったな!」と言っていた。しかし、ミサキは一人、教室の隅で彼らを見ていた。彼女はすぐに気づいた。ヒロトの背中に、何か黒い影がまとわりついているのを。
「ヒロト、ちょっといい?」
ミサキは彼を呼び止め、静かに言った。
「背中についてる。多分、トンネルから連れてきたんだと思う。お祓いに行ったほうがいい。」
ヒロトは一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐに笑って「またそんな冗談言うなよ」と笑い飛ばした。周りのクラスメイトたちも一緒になって笑っていた。
だが、ミサキは真剣だった。「本気で言ってる。これ以上放っておくと、もっとひどいことになるから。」
ヒロトは少し面倒くさそうにして、そのまま去っていったが、ミサキの胸には嫌な予感が残った。
その予感は数日後に現実となった。
ヒロトは次の日から学校に来なくなった。彼の仲間に聞いてみると、急に体調が悪くなり、家から出てこれないという。ミサキは彼に何が起こったのかすぐに察したが、何もできないまま日々が過ぎていった。
そして、5日目の夜だった。ミサキの携帯が鳴り、画面を見るとヒロトからのメッセージだった。
「助けてくれ…毎晩誰かが部屋にいる気がするんだ…お前が言ってたこと、本当だったのか…?」
その言葉を見て、ミサキはすぐにヒロトに電話をかけた。
「すぐにお祓いに行こう。私が知っている神社があるから、一緒に行ってあげる。」
翌日、ミサキはヒロトを連れて、その神社に向かった。小さな神社だが、霊感を持つ人たちの間では有名な場所だった。神主に状況を説明すると、彼はすぐにお祓いを始めてくれた。
お祓いの最中、ヒロトは何度も何かに触られているような感覚に襲われ、冷や汗をかいていた。儀式が終わると、彼の顔色は少しずつ戻っていった。
「本当にありがとう。お前の言うことを信じておけばよかった。」ヒロトはミサキに深々と頭を下げた。
ミサキは少し微笑んで、「これで大丈夫。もう二度とあの場所には近づかないで。」と言った。
その後、ヒロトは元通り元気を取り戻し、教室に戻ってきた。彼はミサキの言葉を心から信じ、再び肝試しなどすることはなくなった。
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