ある日、私は大学の友人であるリョウから奇妙な誘いを受けた。「ちょっと面白い話があるんだけど、聞いてみない？」と言うのだ。リョウは普段から怖い話や心霊現象に興味を持っていたが、この時はいつもとは違う、どこか緊張した雰囲気だった。
「実はさ、知り合いに霊感が強い人がいて、ちょっとやばい話を聞いたんだよ。」リョウはそう言って、一緒にその人物を紹介したいという。
少し好奇心をそそられた私は、半信半疑ながらもその誘いを受けることにした。そして、リョウに連れて行かれたのは、都内の古びた喫茶店だった。そこには、リョウの紹介で「霊感を持つ男」として知られているアキラという人物が待っていた。
アキラは30代半ばくらいの落ち着いた雰囲気の男性で、見た目はごく普通のサラリーマン風だった。しかし、目の奥にはどこか冷静さと鋭さがあり、すぐにこの人が「ただ者ではない」と感じ取れた。
「君が話を聞きに来たのか。俺の話は、普通の人にとっては信じられないかもしれないが、実際に起こったことなんだ。」アキラはゆっくりと話を始めた。
彼の話によると、数ヶ月前、ある男性がアキラを訪ねてきた。その男性は、どうしてもアキラに助けを求めたかったという。理由は「何かに憑かれた」というものだった。
「彼は、最初は軽い気持ちで心霊スポットに行ったそうだ。その場所は、廃病院で有名な場所だったんだけど…彼はそこで『何か』を持ち帰ってしまったんだ。」
アキラの話に私は興味を引かれた。彼の話し方は真剣で、まるでその場にいたかのように詳細だった。
「その男性、最初はただ疲れやすいとか、悪夢を見るくらいだったそうだ。でも、次第に体調がどんどん悪くなり、夜中に突然目が覚めることが増えた。そして、ついに家の中で『誰か』の気配を感じるようになったんだ。」
アキラはさらに詳しく続けた。男性が感じた「誰か」の正体は、何かしらの霊だったという。それも、ただの霊ではなく、悪意を持った存在だということが次第に明らかになっていった。
「彼は、最初は気のせいだと思っていたんだ。でも、家の中で物が勝手に動いたり、夜中に耳元で囁かれる声を聞くようになった。ある日、鏡の前で顔を洗っていると、鏡の向こう側にもう一人、自分の背後に立っている『誰か』を見たそうだ。」
その話を聞いた瞬間、私は全身に寒気を覚えた。その感覚は、まるで自分がその場にいて、何かがじっとこちらを見ているかのような錯覚に陥るほどだった。
「彼はそれでパニックになり、すぐに知り合いを通じて俺に連絡してきた。俺も最初は話を聞くだけだと思っていたんだけど、実際に会ってみると、その男の背中にははっきりとした影がついていたんだ。」
アキラの話す「影」とは、普通の人には見えない霊のことだという。アキラの霊感では、その影が明確に見え、しかもそれが非常に強い悪意を持っていることがわかったらしい。
「俺は彼にすぐにお祓いを受けるよう勧めた。だけど、その時点で、影は彼にかなり強く取り憑いていて、普通のお祓いでは効果がないかもしれないと言ったんだ。」
私はその話に引き込まれ、息を呑んだ。リョウも真剣な顔で聞いている。
「結局、その男は特別な儀式を受けて、ようやくその影から解放されたんだ。でも、その儀式の途中で、彼は何度も幻覚を見たり、幻聴に苦しんだ。影は最後まで彼を離そうとしなかったんだ。」
「それで、その男性は無事だったのか？」私は思わず聞いてしまった。
アキラは頷いた。「最終的には無事に影を払った。でも、彼はその後、心霊スポットには二度と近づかないと誓ったそうだ。それくらい、強烈な体験だったらしい。」
アキラはそこで話を終えた。私たちはしばらく沈黙したまま、その場の空気に飲まれていた。私にとって、霊感があるという話はどこか非現実的であったが、アキラが語ったその体験談には、何かリアルな恐怖があった。
「もしも、何か不安を感じたら、いつでも俺に相談してくれ。」アキラは最後にそう言い残して、私たちと別れた。
その後、私は心霊スポットに行くことはもちろん、怖い噂がある場所には決して近づかないようにしている。あの日、アキラが話してくれた「影の存在」を思い出すたび、今でも全身が冷たくなるような感覚を味わう。
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