喫茶店のテーブルに向かい合って座った私とリョウ。アキラがまた怖い話をしてくれるということで、私たちは少し緊張していた。前回、黒い影の話を聞いた後の恐怖がまだ心に残っていたからだ。しかし、今回アキラは少し違った表情をしていた。どこか懐かしさも交じるような、しかし深い恐怖を抱えた目つきだった。
「今日は俺の話をするよ。小学生の頃、俺が自分に霊感があるって気づいた時の話だ。」
アキラがコーヒーを一口飲み、深い息をついて話し始めた。
「俺が初めて『霊感がある』って自覚したのは、たしか小学校3年生くらいの頃だった。あの頃はまだそんな能力が怖いものだなんて思ってなかった。ただ、不思議なことが身の回りで起こるだけだったんだ。」
アキラは少し微笑んだが、目の奥にはどこか悲しげな色が見えた。
「俺の家には、当時古い日本人形があった。戦前からの家宝って言うのか、祖母が大事にしていたもので、髪が長くて、着物を着た立派な人形だったよ。でも、俺はあの人形が好きじゃなかったんだ。いつも何か見ているような気がして、気味が悪かった。」
アキラの言葉に、私とリョウは思わず顔を見合わせた。人形にまつわる話は昔からよくあるが、彼の話はどこか現実味を帯びていた。
「ある日、学校から帰ると、その日本人形が俺の部屋に置かれていたんだ。普段は祖母の部屋にあったはずなのに、なぜか俺の机の上に座っていた。母親に聞いても『触ってない』って言うし、祖母も部屋から出した覚えはないって言う。」
「それ、誰が動かしたんだ?」リョウが小さな声で聞いた。
アキラは静かに首を振った。「わからない。ただ、その日から俺の周りで変なことが起き始めたんだ。」
「変なことって…?」
「夜中、布団に入っていると、隣の部屋からコツコツと歩くような音が聞こえたり、誰もいないはずの廊下で障子が勝手に開いたりするんだ。最初は家の中の誰かが動いてるんだろうと思ってた。でも、ある日、明らかに『何か』がおかしいと気づいた。」
アキラの表情が少し緊張感を帯びたものに変わる。
「その夜、寝ていた時だ。ふと目が覚めて、部屋の隅をぼんやりと見たら…あの日本人形が、俺の部屋の中に立っていた。机の上にあったはずなのに、いつの間にか床に降りていて、俺の方に向かって立っていたんだ。」
その瞬間、私の全身に鳥肌が立った。アキラはその記憶を語りながら、まるで今でもその光景が目の前にあるかのように見えているようだった。
「怖くて動けなかった。じっとその人形を見つめたまま、何もできずにただ息を潜めていた。目を閉じることもできなかったんだ。その人形は動かなかったが、部屋中に重い空気が漂っていて、明らかに何かがいるのがわかった。体が冷たくなっていく感覚があって、でも何もできない。ただ、ずっと見つめ合っていた。」
アキラの声が少し震えたのを感じ、私たちはその異様な空気に飲まれていった。
「その後、何があったのかよく覚えていない。ただ、朝になると人形は元の位置に戻っていた。まるで何事もなかったかのように机の上に座っていたんだ。でも、その夜を境に、俺ははっきりと『見える』ようになった。」
「見えるって、何が?」私は思わず聞いた。
「幽霊だ。あの人形が動いたのか、ただ俺を見ていただけなのかはわからない。でも、その夜以来、俺は普通の人には見えないものが見えるようになったんだ。」
アキラは少し間を置いて続けた。
「しばらくして、祖母がその日本人形を処分したんだ。理由はわからないが、祖母も何かを感じていたんだろう。処分した後は少し落ち着いたけど、それでも俺の霊感は消えなかった。それからというもの、俺の周りではずっと何かがついてくるようになったんだ。」
アキラの話は、単なる怖い話ではなく、彼が実際に体験した「何か」を私たちに伝えていた。人形にまつわる得体の知れない恐怖は、アキラが幼い頃に初めて経験した「霊感」の発端であり、それは今も彼の中に根強く残っている。
■おすすめ
マンガ無料立ち読み
マンガをお得に読むならマンガBANGブックス 40%ポイント還元中
1冊115円のDMMコミックレンタル!
人気の漫画が32000冊以上読み放題【スキマ】
ロリポップ!
ムームーサーバー
新作続々追加!オーディオブック聴くなら - audiobook.jp
ページをめくってゾッとする 1分で読める怖い話 [ 池田書店編集部 ] 価格:1078円 |