アキラの話を聞くたび、私もリョウも心のどこかで「怖いけど、また聞きたい」と思っていた。アキラが経験した出来事は、私たちの生活とはまるで別世界のようだ。しかし、それが彼にとっては現実の一部であることを、彼の真剣な表情が物語っていた。
いつものように喫茶店に集まったその日、私とリョウは新しい話に期待しつつも、少し不安を感じていた。特に、今回のアキラの表情には何か重いものがあったからだ。
「今日は、ちょっと俺自身の身体に残っている話をしようと思う。見せてやろうか、俺の左腕の傷。」アキラがそう言って、テーブルの上に左腕を置いた。私とリョウはその腕に目を向けた。
アキラの左腕には、うっすらと赤い引っかき傷がくっきりと残っていた。最初は最近ついてしまった傷かと思ったが、アキラがその傷について話し始めた瞬間、その傷がただのものではないことを理解した。
「この傷ができたのは、もう何年も前のことだ。当時、俺はまだ霊感を持っていることはわかっていて、その能力をちょっと疎ましく思っていた時期だった。霊的なものに触れることも珍しくなかったが、正直、怖さというよりも面倒だと思ってたんだよ。」
アキラは腕を見つめながら、淡々と話を続けた。
「ある日、友達数人と心霊スポットに行くことになった。場所は、廃れた神社の裏手にある森だった。そこには古い祠があって、地元では『呪われた場所』として有名だったんだ。でも、俺たちはそんな噂を半分冗談だと思ってた。特に深く考えずに、その祠に足を踏み入れた。」
アキラは一瞬腕をさすりながら、少しだけ目を細めた。
「祠に着いた瞬間、異様な空気が流れてるのがわかった。周囲は完全に静まり返っていて、風すら吹かない。不自然なほどの静けさだった。俺の友達もその空気に圧倒されて、みんな急に口数が少なくなった。それでも、俺たちは祠の中に入った。」
その時の不気味な状況が想像でき、私とリョウは思わず身を乗り出して話を聞いた。
「中に入ってからしばらくして、俺は急に左腕に強烈な痛みを感じたんだ。まるで誰かに思い切り引っかかれたような痛みで、瞬間的に腕を見たけど、誰も俺に触れてなかった。痛みは鋭く、まるで爪で深く切られたかのようだった。」
アキラの表情が少し険しくなった。
「その時、俺は確信したんだ。見えない何かが俺に触れていたってことを。俺は友達に何も言わなかったけど、内心では『これはまずい』と感じた。痛みはしばらく続いたが、祠を出てからは少しずつ引いていった。」
リョウが思わず口を開いた。「その引っかき傷、最初はどうだったんだ?すぐに跡が残ったのか?」
「そうだな、最初はただ赤い線が浮かび上がっていた。皮膚がひどく傷つけられていて、出血はなかったけど、痛みはリアルだった。その日は家に帰ってからも、しばらくその痛みが続いてたんだ。でも、数日経つと不思議と痛みはなくなった。だからその時は『もう大丈夫だろう』と思ったんだ。」
アキラは再び左腕を見つめた。傷は、私の目から見ても深いものではなさそうだったが、何か異常なことが起こっているのは間違いなかった。
「でも、問題はそこからなんだ。痛みがなくなっても、この傷だけはどうしても治らなかったんだ。普通なら数日で消えるはずの引っかき傷が、何ヶ月経ってもずっと残り続けた。痛くもかゆくもない。ただ、いつまでも消えないんだ。」
アキラの言葉に、私とリョウは驚きを隠せなかった。傷は完全に治癒するはずなのに、時間が経っても全く変わらないという状況は異常だった。
「その後、色々試してみたんだ。病院に行ったり、皮膚科で診てもらったりしたけど、どこも異常なし。傷が浅いから、自然に治るだろうって言われた。でも、どれだけ時間が経っても、治らないままなんだ。…まるで、何かに刻まれた印のように。」
アキラは冷静に話していたが、その声には不気味な重みがあった。リョウも、私もその傷に目が釘付けだった。
「気づいた時には、この傷が俺にとって何かしらの『メッセージ』だと感じるようになった。何かに触れて、何かを持ち帰った。その代償がこの引っかき傷なんだろうと思う。」
数ヶ月後、私は再びアキラに会った。前回の話が気になっていたので、彼に例の傷を見せてくれるよう頼んだ。
「まだ治ってないのか?」私は聞いた。
アキラは静かに腕をまくり、見せてくれた。そこには、前回見たのと同じ赤い引っかき傷がまだ残っていた。全く治る気配はなかった。
「やっぱり、消えてないんだな…」
アキラは少しだけ笑い、「この傷は、俺にとって一生残るものだろうな」と言った。その言葉に、私の背中には再び冷たいものが走った。
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