アキラが語る体験はいつも怖い。だが、ただ怖いだけじゃない。彼の言葉にはいつもリアルな「現実」が感じられるから、私たちはつい引き込まれてしまう。今回、アキラは少し沈んだ様子で話し始めた。いつも以上に重たい空気を感じる。
「今日は、俺が自分の霊感を本気で疎ましく思っていた頃の話をしようと思う。あの時は、正直なところ見えることが嫌でたまらなかったんだ。」
そう語り出したアキラの表情はいつもより硬く、その体験が彼にとっていかに大きな影響を与えたかが伝わってきた。
「霊感って、最初はちょっとした不思議な能力だと思ってた。でも、高校を卒業してから本格的に仕事で関わり始めると、どんどんその力が嫌になってきたんだ。『見える』ってことは、常に霊的なものに触れているってことだからな。何も関わりたくないって思っても、目の前に現れるんだよ。それが怖い時もあれば、ただ不快なこともあった。」
アキラはコーヒーを一口飲んで、続けた。
「その頃、俺は霊的な存在を追い払う仕事をいくつも引き受けていた。依頼主は毎回怯えていて、助けを求めてくるけど、正直に言えば俺自身もその頃は、もう関わりたくないと思ってたんだ。見えるってだけで、人の恐怖と霊の間に挟まれる。その繰り返しだった。」
アキラは深いため息をついた。「特にきつかったのは、ある家族からの依頼だった。彼らの家は古い家で、母親と娘が住んでいた。母親は病気で、ベッドに横たわっているだけだったが、娘が言うには『夜中になると、母親の部屋から変な音が聞こえる』って言うんだ。で、最悪なことに、その音が日に日に大きくなってきた、と。」
リョウが思わず口を挟んだ。「変な音って、何の音だったんだ?」
「それは当初、娘にもわからなかったらしい。だけど、次第に『誰かが何かを引きずって歩いている』ような音が聞こえるようになった。重いものを床に引きずる音が、夜になると母親の部屋から聞こえてくる。しかも、その音はいつも深夜の2時になると始まる。」
アキラの言葉に、私もリョウも息を呑んだ。その引きずる音が、何か良くないものを引き寄せる兆候であることは容易に想像できた。
「依頼を受けて、俺はその家に向かった。娘はもちろん不安でたまらない様子だったし、母親も明らかにやつれていた。俺はまず、その部屋を調べ始めたんだ。家の中にはどこか重苦しい空気が漂っていて、すぐに普通の霊的なものじゃないことがわかった。」
「その家には何か、昔から棲みついていたんだ。それは娘には見えなかったけど、俺にはすぐに感じ取れた。部屋の奥、ベッドのそばに『何か』が立っている。それは顔のない、人間の形をしていたが、異様に長い体躯を持ち、黒ずんだ服をまとっていた。」
その異様な姿に、私とリョウは背筋がぞくりとした。
「その『もの』は母親のベッドのすぐ隣に立っていて、何もせずただじっとしていた。俺はすぐにお祓いを進めようと思ったが、母親が突然俺に言ったんだ。『あの人を追い出さないでください』って。」
「え、追い出さないでって…?何でだよ?」リョウが思わず聞き返す。
「俺も驚いたよ。霊は明らかに不吉な存在だし、普通なら取り払うべきものだ。でも、母親はそれを拒んだ。『この人は私の側にずっといてくれた。だから、連れていかないで』って、何度も頼んでくるんだ。」
アキラの声には、当時の混乱がまだ残っているようだった。
「俺は仕事としてその霊を取り払わなきゃならない。けど、母親は拒む。家族にとってもこのままでは危険だとわかっていたが、強引に何かをしようとしても、母親が心を閉ざしてしまうだけだった。それに、その時の俺はもう、正直言ってこの霊感を使うのが嫌でたまらなかったんだ。見たくもないものを無理に見て、感じたくないことを感じてしまうのは苦痛だった。」
「じゃあ、どうしたんだ?」私は思わず聞いてしまった。
「結局、俺は最低限の浄化だけして、その霊自体には手を出さなかった。ただ、その霊が家族に危害を加えることがないように、ある程度の保護結界を張ったんだ。それ以上は手を出せなかったし、俺もその時はこれ以上関わりたくないという気持ちが強かった。」
アキラは少し顔を曇らせた。「結局、その家族はその後どうなったのか、俺にはわからない。でも、俺の中でその依頼が強く残ったのは、霊感という能力に対する自分の嫌悪感だった。見えることが嫌でたまらなくて、何度もその力を封じようとした。でも、どうしても消せなかったんだ。」
彼の声には、霊感に対する苦悩と、そこから逃げられない宿命がにじみ出ていた。
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