「最近、どうしても気になる夢があるんです…」
心療内科の診察室に入ると、いつものはずの穏やかな空気が少し重く感じた。私はゆっくりと椅子に腰掛け、目の前に座る先生に視線を向けたものの、すぐに目をそらしてしまった。先生は変わらず穏やかな表情で、私をじっと見つめている。
「またあの夢ですか?」と、優しい声で尋ねてきた。
「はい…あの不思議な夢です。」
私は深呼吸をしながら、少しずつ話し始めた。
「夢の中で、私はいつも同じ場所にいるんです。大きな時計塔がある広場なんですけど、そこで何かを探しているんです。でも、その場所が毎回微妙に違うんです。時計の針が逆回りしていることもあれば、同じ風景が何度も繰り返されることもあって…不思議な感覚なんです。」
先生は頷き、興味深そうに聞いてきた。
「その夢では、何か特定の目的があるんですか?」
「目的は…何かを見つけなきゃいけないっていう感覚が強いんです。でも、何を探しているのかはわからない。ただ、急いでいる感じがして、焦っているんです。時計塔の鐘が鳴る前に見つけないといけないような、そんな感覚です。」
私は少し考えながら話を続けた。
「でも、歩いているうちに、気づくと同じ場所に戻っているんです。まるで迷路の中にいるみたいで……同じ道を何度も歩いているのに、出口が見つからないんです。時間がどんどん迫ってくる感じがして……それがすごく不安で。」
先生は少しメモを取りながら、次の質問をした。
「その夢の中で、何か特に印象的な出来事はありますか?例えば、人に出会ったり、特定の物を見ることがあったり。」
「はい…夢の中で、いつも出会う人物がいるんです。中年の男性で、古い服を着た人です。彼はいつも私をじっと見ていて、何かを知っているみたいなんですけど、話しかけてこないんです。ただ、遠くから私を見つめているだけで…それがすごく不気味なんです。」
私はその男性の顔を思い出し、少しぞっとしながら続けた。
「その人と目が合うと、急に時間が早く進み出すんです。時計塔の針がぐるぐると回り始めて、私が追い詰められていく感じです。足が重くなって、思うように動けなくなってしまうんです。そして、最後にはいつもその鐘の音が鳴り響くんです。それが夢の終わりの合図で、そこで目が覚めます。」
先生は眉をひそめながら聞いていた。
「その鐘の音は、どんな音なんですか?」
「すごく重い音です。体全体が震えるような感じで、聞くだけで心臓がドキドキして……何か悪いことが起こる予感がするんです。目が覚めた後も、その音がしばらく耳に残っているんです。」
私は話しながら、自分の中に湧き上がる不安を感じていた。先生は少し考え込んでから、再び口を開いた。
「その夢が現実の生活と何か関係していると感じますか?最近、同じように時間に追われている感覚やプレッシャーを感じることはありますか?」
「そうかもしれません…最近、仕事で締め切りに追われることが多くて、常に時間との戦いをしているような気がします。でも、あの男性が夢に出てくる理由はわかりません。誰なのかも全然知らないし……ただ、何か大事なことを知っているように見えるんです。」
先生は深く頷きながら話を聞いていた。
「その男性は、あなたの不安やプレッシャーの象徴かもしれません。彼が何も言わずに見つめていることも、あなたが何かに気づくべきだというサインなのかもしれませんね。時間が迫っているという感覚も、現実のプレッシャーが反映されている可能性があります。」
私は先生の言葉を聞きながら、少しだけ安堵を感じた。
「そうかもしれませんね…でも、どうすればこの夢から解放されるのかわからなくて。いつも同じ結末で終わるんです。目が覚めるたびに、夢の中で何か大事なことを忘れてしまったような気がして…それがすごく不安なんです。」
先生は優しい声で、こう答えた。
「夢は、あなたの心が作り出すものです。何度も同じ夢を見るということは、まだ解決していない何かがあるのかもしれませんね。でも、その夢を通じて自分の心の中にある問題に気づくことが、解決への第一歩かもしれません。」
私は先生の言葉を胸に刻みながら、診察室を後にした。時計塔の夢はまだ謎に包まれているが、もしかしたらそこに私自身の答えが隠されているのかもしれない。再びその夢を見たとき、私は何か新しい発見ができるかもしれないと思いながら。
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