町中の落ち着いたカフェで、私は共通の友人である美咲に誘われ、彼女の友人である菜々子と初めて顔を合わせることになった。3人でカフェのソファ席に座り、最初は軽い雑談をしていた。仕事の話や最近見た映画の話――そんな何気ない会話をしていたが、やがて話題が少しずつ深い方向へと進んでいった。
「そういえば、菜々子も不思議な体験したことあるんだよね?」美咲が言い出した。
「え、なにそれ?」と私は興味を引かれ、菜々子に視線を向けた。
菜々子は少し戸惑ったように笑いながら、しかし真剣な表情で言った。「うん…実は、ちょっと奇妙な話なんだけど、私…一度、すごく変な場所に迷い込んだことがあるの。」
「変な場所って?」私はさらに興味を持ち、椅子に少し前のめりになった。
「『偽りの街』って言っていいのかな…そこは、普通の街に見えるんだけど、人々が全然普通じゃないの。表情がまるで作り物みたいで、みんな無理やり笑ってる感じなのよ。」
その瞬間、私の胸がドキッとした。まさか、彼女も…?
「菜々子、ちょっと待って。その話、私も体験したことがあるかもしれない。偽りの街…もしかして、その人たち、全員無機質な笑顔で、目が焦点合ってなかったんじゃない?」
菜々子は目を見開いた。「え…本当に? そう、まさにそれよ! 目がガラス玉みたいで、口元だけ笑ってる感じ。なんだか、作られたみたいな笑顔で…」
私たちの会話に、美咲が驚いた表情で口を挟む。「え、二人とも同じような体験をしてるってこと? そんな偶然あるの?」
「いや、これが偶然だとしたら、あまりにも不気味すぎる…」私は思わず呟いた。「私も、同じような街に迷い込んだことがあるんだ。夜中に散歩していたら、突然、その街にたどり着いていた。最初は普通の街に見えたんだけど、周りの人たちがあまりにも不自然だった。」
「私の場合はね、ちょっと違うシチュエーションだったの」菜々子が話し始めた。「仕事で出張していて、夜にホテルの近くを散歩していたの。特に何も考えずに歩いていたら、いつの間にかその街に入ってたのよ。最初は、街並みが少し古びているだけかと思ったんだけど、すれ違う人たちが全員、無表情なのに笑ってるのがすごく気味が悪くて…」
「私もまさにそんな感じだった。夜中に家の近くを歩いていたんだけど、突然その街にいて、無表情な笑顔の人たちがただすれ違うだけなんだ。でも、どの人も声をかけるわけでもなく、ただ不気味な微笑を浮かべていた。」
「その笑顔…何か作り物みたいだったわよね? 目はまったく笑ってなくて、焦点が合わない感じ…」
「そう! 目が空っぽみたいで、まるで彼らが人間じゃないような感覚に襲われた。あの時の違和感が今でも忘れられない…」
二人の会話に、私は鳥肌が立つ思いだった。これまで誰かに話しても信じてもらえなかった体験が、同じように共有されているなんて、考えもしなかった。
「それだけじゃなくて…」菜々子が少し声を低めた。「その街で、警察官みたいな人に会わなかった?」
その言葉に、私も身を乗り出した。「会った! 彼だけが普通の人に見えて、私に『ここには来ちゃダメだ』って言ったんだ。あの瞬間、まるで夢が覚めるように、気づいたら元の街に戻っていた。菜々子も同じだったの?」
菜々子は小さく頷いた。「そう、私も同じセリフを言われたの。その警察官のような人が現れた瞬間、怖さよりも安心感が湧いたんだけど、なんであんな場所にいたのか、まったく分からないままだった。」
美咲が目を丸くしながら言った。「なんだか信じられないけど、二人とも同じような経験をしてるって、どういうことなんだろう?」
「それが私にも分からないんだよ。」私はため息をついた。「まるで、その街が私たちを引き寄せたみたいな感じがして…あれが現実なのか夢なのかも分からない。でも、すごくリアルだった。」
菜々子も静かに頷いた。「あの街の空気感とか、無表情な笑顔とか、普通じゃなかった。あれが夢だったなら、なぜこんなにも現実みたいに感じたのか不思議で仕方ない。」
私たちはしばらく無言で考え込んだ。共通の体験に言葉を失いながらも、その背後にある謎を感じていた。美咲は驚きと興味を隠せない様子で私たちを見つめていた。
「ねぇ、それって本当に偶然なの? それとも、何か意味があるのかな…?」美咲がぽつりと呟いた。
「それは分からない。でも、一つだけ言えるのは…あの偽りの街には、もう二度と行きたくないってことだよ。」私はそう言って、冷えたカフェのコーヒーに口をつけた。
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