診察室の空気が重く感じた。私はこれまで多くの夢の話を聞いてきたが、目の前に座る患者の様子はいつもと違っていた。彼は顔色が悪く、何か重いものを抱えているようだった。彼が静かに口を開いた。
「先生、最近見た夢の話なんですが……かなり怖くて、まだ頭から離れないんです。」
私は少し緊張しながら、促した。
「どんな夢でしたか?」
彼は深く息を吸い込んでから、話し始めた。
「夢の中で、私は小学生に戻っていたんです。現実ではもう両親は亡くなっているはずなのに、夢では家に帰って誰もいないと両親を探しに行くんです。」
彼の声にはどこか抑えきれない恐怖がにじんでいた。私は彼の言葉を待ちながら、静かに頷いた。
「夢の中で両親を探すんですね。その時、どんな気持ちでしたか?」
「不安で仕方がなかったです。家の中は暗くて、家具も散らかっていて……子供の頃の家とは全然違う雰囲気なんです。まるで、誰かが家の中で何かを探して荒らした後のような感じでした。それでも、僕は両親を見つけなきゃって必死になって、外に出て探し始めました。」
彼は少し言葉を詰まらせたが、やがて続けた。
「外は真夜中で、街には誰もいませんでした。家の近くの公園に行ったり、学校に行ったり、いろんな場所を探し回ったんです。でも、どこにも両親の姿はなくて……ただ、いつも誰かの視線を感じていたんです。振り向いても誰もいないんですけど、その気配だけは消えないんです。」
私は少し緊張しながら聞いていた。彼は夢の中の孤独感と恐怖を思い出しながら話しているのが明らかだった。
「その視線を感じた時、どんな風に感じましたか?」
「怖くて、でも、なぜか両親に会えるんじゃないかっていう希望もあったんです。それで、どんどん歩き続けました。夢の中では、時間の感覚がなくて、永遠にその街をさまよっているように感じました。」
彼の話が進むにつれて、私も彼と共にその夢の世界に引き込まれていくような気がした。
「それから、しばらく歩いていると、ふと見覚えのある場所にたどり着いたんです。それは、子供の頃に両親と一緒に行った古いショッピングモールでした。でも、そのモールはもう廃墟のようになっていて……人がいないどころか、電気も消えていて、音も何もない。何かが壊れたように静かで……。」
彼の声は震えていたが、まだ何か言い足りないことがあるようだった。
「そのモールに入ると、誰かの気配が強くなって、僕はその人を追いかけ始めました。足音がすぐ近くで聞こえるんです。でも、いくら走ってもその足音は近づかなくて……そして、やっと角を曲がった時、そこに……両親が立っていたんです。」
私は少し身震いしながら、彼の話の続きを待った。
「でも……その時、何かが違うとすぐにわかったんです。両親は僕に背を向けて立っているんですけど、その姿がなんだかぼんやりしていて……まるで影のようなんです。何か話しかけようとしても声が出なくて、そのまま両親に近づこうとした時、突然……振り向いたんです。」
彼はその瞬間を思い出したかのように、顔を強ばらせた。
「振り向いた顔が……両親じゃなかったんです。全然知らない、ひどく歪んだ顔の人たちが、まるで両親の顔を借りているかのような、そんな表情で僕を見つめていました。目は黒くて、何も映っていなくて……口は笑っているんですけど、その笑顔が全然温かくないんです。まるで、僕を嘲笑うかのようで……。」
彼の声は次第に弱くなり、部屋全体が凍りついたような静けさに包まれた。私は何か言葉を探したが、何も出てこなかった。
「そこで、僕は逃げようとしたんです。でも、体が動かなくて……その時、両親の姿をした何かがゆっくりと近づいてきて、僕の肩に手を置いて……」
彼はその瞬間、口を閉じ、目を閉じた。私は何も言えないまま、ただその空気の重さに耐えていた。
「その時、目が覚めました。だけど……肩に、まだその冷たい感触が残っていたんです。夢だとわかっているのに……その感触はずっと消えなくて……。」
彼は静かに話を終えたが、診察室には言いようのない不気味な雰囲気が漂っていた。私は何とか冷静さを保とうとしたが、その話の衝撃が体にじわじわと広がっていくのを感じた。
「それは……とても怖い夢でしたね。あなたの心の奥にある何かが、その夢を通じて表れているのかもしれません。」
そう言いながらも、私自身、二度とこの夢の話を聞きたくないという思いが頭をよぎった。夢が現実に侵食してくるような感覚が、診察室全体を包んでいるように感じられた。
診察室を後にした彼の後ろ姿を見送りながら、私はもう一度その夢の内容を振り返り、背筋が凍るのを感じた。
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