診察室には、いつもの穏やかな空気が流れていた。私はいつも通り、患者の基本的な質問を進めていた。
「最近、体調はどうですか?睡眠の方は取れてますか?」
彼は少し考え込んでから、答えた。
「はい、まぁそれなりには……ただ、最近ちょっと気になることがあって。」
その瞬間、彼の表情が少し変わった。私は気になり、穏やかに促した。
「気になることですか?何かありましたか?」
「実は……最近、変な夢を見るんです。それが、かなり不思議で……先生、夢の話をしてもいいですか?」
夢の相談だ。私は少し驚いたが、興味を持って話を聞くことにした。
「もちろんです。どんな夢を見たんですか?」
彼は少し緊張したような表情を浮かべながら、夢の話を始めた。
「夢の中で、僕は見知らぬ場所にいました。周りは全て真っ白な空間で、床も壁も天井も何もかもが白いんです。まるで、何も存在しない無限の空間に放り込まれたような感じでした。」
彼はその景色を思い出すようにしながら続けた。
「最初は不安だったんですけど、その空間でただ立っていると、突然遠くから誰かが歩いてくるのが見えたんです。白い服を着た人で、全身真っ白なんです。顔もはっきり見えなくて、まるでその空間と同化しているような感じでした。」
私はその描写に少し興味を引かれながら、彼に質問した。
「その白い服の人は、何か話しかけてきたんですか?」
「最初はただ黙って歩いてくるだけだったんです。でも、近づいてくるにつれて、だんだんその人の顔が見えてきました。でも……目がなかったんです。顔には目がなくて、口元だけがはっきりと笑っているんです。」
彼はその時のことを思い出し、少し震えるような声で続けた。
「怖いはずなのに、その時は全然怖くなくて、むしろ不思議な感じでした。その人は僕のすぐ目の前まで来て、こう言ったんです。『もう少し待っていれば、全てがわかる』って……でも、何のことを言っているのか全くわからなくて。」
私はその言葉に少し不安を感じながらも、次の質問を投げかけた。
「その言葉を聞いて、あなたはどう感じましたか?何か意味があるように思えましたか?」
「その時は意味がわからなかったんですが、なぜかその言葉に強く引き込まれたんです。まるで、その人が言っていることが重要で、何か答えを持っているかのように感じました。僕は夢の中で、その人に『何を待てばいいんですか?』って聞いたんですけど、彼はただ笑ったままで、答えてくれませんでした。」
彼の話が進むにつれ、私はその夢の不可解さにどんどん引き込まれていった。
「その後、その白い服の人は何か他に行動を起こしましたか?」
「ええ、その後、彼は僕の腕を軽く掴んできたんです。触れられた瞬間、体中が冷たくなって、まるで氷のように感じたんです。でも、痛みはなくて、むしろ心が落ち着くような感覚がありました。そしてその後、突然その人は消えてしまったんです。僕は一人、また真っ白な空間に取り残されて……そこで目が覚めました。」
彼は夢の中での感覚がまだ残っているかのように、手元を見つめていた。
「それで、その夢を見た後、何か変化を感じましたか?」
「特に大きな変化はないんですが、あの白い服の人が言った言葉がずっと頭に残っていて……『もう少し待っていれば、全てがわかる』って。何かが近づいているんじゃないかって、そんな気がしてならないんです。」
彼の言葉に何か引っかかるものを感じた。夢は彼の無意識が何かを伝えようとしているのかもしれない。
「その夢の中で感じた冷たさや、不思議な安堵感は、現実での不安や混乱と関係しているのかもしれません。もしかすると、あなたの心が何かに向き合おうとしているのかもしれませんね。」
彼は私の言葉を聞きながら、少し考え込んでいた。
「そうかもしれません……でも、あの笑顔と目のない顔が、まだ忘れられなくて。あれが何を意味しているのか……先生、僕は何を待っているんでしょうか?」
私は答えを探しながらも、その質問に戸惑いを感じた。彼の夢に出てきた白い服の人物が象徴するものが何なのか、まだはっきりとはわからなかったが、ただその不気味さが頭にこびりついていた。
診察室を後にする彼の姿を見送りながら、私はその夢が持つ意味の深さに驚きを隠せなかった。白い服の人が笑顔で伝えた不吉なメッセージ――その夢が単なる幻想ではなく、何かを予兆しているのかもしれないと思うと、背筋が少し寒くなった。
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