田中雄介は、いつものように倉庫で書類整理の仕事に従事していた。無数の古びた書類が積み上げられ、埃をかぶった段ボールが所狭しと並んでいる。この仕事に慣れてきた雄介は、今日も淡々と書類を仕分けしていた。
彼は無意識に書類を分けていたが、ふと、一つの封筒が目に留まった。その封筒はやや大きく、表面には古いインクで「手記」と書かれていた。何か特別なものを感じ取った雄介は、その封筒を開けて中を確認することにした。
封筒には数枚の紙が入っており、それらは手書きの文字でびっしりと埋め尽くされていた。その手記は、ある人物が長い年月にわたって記録した出来事のようだった。
目次
手記の中身
7月15日
今日、私は奇妙な夢を見た。夢の中で私は知らない場所にいた。その場所は、現実とは違う、何か異様な空気に満ちていた。私は歩き続けたが、進んでも進んでも出口が見つからない。まるで迷路のように入り組んでいて、どこへ向かっているのか分からなかった。
目が覚めた時、夢の感覚があまりにも現実的で、しばらく現実と夢の区別がつかなかった。この夢は一度きりで終わるものなのか、それとも何かの始まりなのか。
7月18日
また、あの夢を見た。今度は夢の中で、誰かが私を呼んでいた。その声はかすかで、どこから聞こえてくるのか分からない。私は声の主を探して歩き続けたが、どこにも誰もいなかった。目覚めると、現実の世界に戻れたことに安堵したが、何かが背後に付きまとっているような感覚が残った。
夢に関する書物をいくつか調べてみたが、私が見たような夢に関する記述は見つからなかった。あの声は何なのだろうか?何故私を呼ぶのか、その理由が分からない。
7月21日
夢の中の世界が徐々に変わりつつある。最初は単なる異次元のような場所だったが、最近ではその中に建物や街のようなものが現れ始めた。だが、その街はまるで時間が止まっているかのように静まり返っていた。通りに誰もいない。動物もいない。風も吹かない。ただ、そこにあるだけだ。
私はその街を歩き回ったが、やはり出口は見つからなかった。だが、不思議なことに、その場所がどこか懐かしい気がした。現実では一度も見たことがないはずの街なのに。
7月24日
夢は日に日に現実味を増している。目が覚めた後も、夢の感覚がしばらく続くようになった。朝起きると、まるで夢の世界にいた時間が現実とつながっているかのように感じる。昨夜は、夢の中で初めて誰かと会話を交わした。
その人物は、名前も顔も思い出せない。だが、彼は私に「ここからはもう逃れられない」と告げた。彼が何を意味していたのかは分からないが、その言葉が頭から離れない。
7月30日
夢の中で見た街が、現実の街に重なり始めている。夢の中では静まり返っていた場所が、現実でも私の目の前に現れ始めた。私は、ふとした瞬間に現実と夢の境界が曖昧になるのを感じる。例えば、仕事中にふと窓の外を見た時、その街の通りが見えたことがあった。
夢の世界が現実に侵食しているのか、それとも私の精神が崩壊し始めているのか。どちらなのかは分からないが、恐ろしいのは、夢が単なる幻覚ではなく、実際に存在しているかのような感覚だ。
8月5日
私はついに、夢の中での出口を見つけた。だが、出口は思った以上に恐ろしいものだった。あの街の片隅に、小さな扉があり、そこには「ここを通る者は帰れない」と書かれていた。私はその扉を開ける勇気が出なかった。なぜなら、その向こうに何が待っているのか分からなかったからだ。
だが、私にはもう選択肢がないのかもしれない。夢が現実に侵食し続ける以上、私はどこかで決断をしなければならない。このままでは、夢と現実の狭間で私は消えてしまうだろう。
8月10日
最後の手記を書いている。今夜、私はあの扉を開けることに決めた。これ以上、夢に囚われ続けることはできない。もし、私がこの手記を残すことができたなら、私が扉の向こうで何を見たのか、そしてどうなったのかを誰かが知ることになるだろう。
私は、二度と戻れないかもしれないが、それでももう一度夢を見る。そして、最後にその扉を開ける。
終わりの余韻
田中雄介は、最後の一文を読み終えて、深いため息をついた。書かれている内容は、現実とは思えないほどの異様な出来事だった。夢と現実が混ざり合い、次第に区別がつかなくなる恐怖が、文章から伝わってきた。
この手記の持ち主がどうなったのか、そして「扉の向こう」で何を見たのかは、結局わからない。手記はそこで終わっていた。だが、雄介にはその結末を知りたいという気持ちよりも、むしろ、その恐怖に触れるべきではないという本能的な警戒心が芽生えていた。
彼は手記をそっと封筒に戻し、他の書類と一緒に倉庫の奥へと戻した。その後も彼は何事もなかったかのように仕事を続けたが、ふと眠りにつく夜になると、あの手記に書かれていた夢が、頭をよぎることがあった。
そして、雄介は心の中で一つだけ祈っていた。
「どうか、あの夢を自分が見ることがありませんように。」
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