診察室にはいつもの穏やかな空気が漂っていた。私は患者に対して、決まった診察の質問を終えたところだった。
「最近、体調の方はいかがですか?睡眠はちゃんと取れていますか?」
患者は少し落ち着かない様子で椅子に座り直しながら、ため息をついた。
「睡眠は取れてるんですけど……最近、ちょっと変な夢を見るんです。それが気になって。」
私は夢の相談をされることが時々あるため、すぐに話を聞く体勢になった。
「夢ですか?どんな夢だったんですか?」
彼は少し戸惑いながらも、夢の話を始めた。
「夢の中で、私は真っ白な部屋に閉じ込められているんです。四方が白い壁に囲まれていて、天井も床も真っ白。何もないんです。家具も、窓も、扉もない。ただ、その白い空間だけが広がっていて……自分がどこにいるのか、なぜここにいるのかもわからないままなんです。」
彼の話に私は興味を持ちながら、メモを取りつつ、続きを促した。
「その部屋に閉じ込められている時、何か特別な感情を感じましたか?」
「不安です。すごく不安で、逃げ出したいのに、逃げる場所がないんです。壁を叩いてみても何も起きないし、叫んでも音が吸い込まれるように何も響かない。まるで、外の世界から完全に遮断されているような感覚でした。」
彼の話を聞きながら、その夢が象徴している可能性を考えていた。
「その白い部屋では、他に何か起きましたか?」
「しばらく部屋の中をさまよっていたんですけど、ふと気づくと、壁に薄っすらと扉のような形が浮かび上がってきたんです。扉はないのに、その形だけが浮き出てきて、そこから視線を感じたんです。何かが向こう側から僕を見ているような……でも、僕はその扉を開けることができなくて。ただその形を見つめることしかできなかった。」
私は少し身を乗り出しながら、彼の感情に焦点を当てた。
「その視線を感じた時、どんな感情が湧いてきましたか?」
「怖かったです。でも、それ以上に妙な感覚があって……なんというか、視線を感じると同時に、その視線が自分の意識の中に入り込んでくるような感覚がありました。誰かに見られているんじゃなくて、僕自身がその視線と同化しているような……」
彼はその感覚を言葉にするのに苦労している様子だったが、話を続けた。
「その時、気がつくと、いつの間にか僕自身がその扉の向こう側にいるような気がして……その瞬間、目が覚めました。」
私は彼の夢の中で感じた不安や混乱が、何か彼自身の無意識に関わっている可能性を考えた。
「その夢が終わった後、何か現実の生活で変化を感じましたか?」
「いや……特に変化はないんです。でも、その白い部屋と扉の形が、ずっと頭にこびりついて離れないんです。あの空間が何を意味しているのか、なぜ僕はあの部屋に閉じ込められていたのか、ずっと考えてしまって。」
彼はその夢の意味を見つけようとしている様子だったが、私もこの夢が何か象徴的なものを含んでいると感じた。
「白い部屋というのは、時に心の空虚さや、孤立感を象徴することがあります。そして、その扉の形や視線は、あなた自身が外の世界や他者との繋がりを感じながらも、それをまだ完全には受け入れられていないという意味があるのかもしれませんね。」
彼は私の言葉を聞きながら、しばらく考え込んでいた。
「そうかもしれません……最近、周りの人との距離を感じていて、孤立している気がしていたんです。あの夢の中の部屋も、そんな気持ちを映し出していたのかもしれないですね。でも、どうしてあの視線があんなに強烈に感じられたのか……まだよくわかりません。」
私はその視線についてさらに考えながら、彼に話しかけた。
「その視線は、もしかするとあなたの無意識の中で、自分自身を見つめ直すためのメッセージだったのかもしれませんね。扉の形が浮かび上がったというのも、何か新しいステージに進もうとしていることを暗示しているのかもしれません。」
診察室を出る彼の後ろ姿を見送りながら、私はあの白い部屋と扉の形が頭から離れなかった。あの夢は彼の心の深い部分に関わっているのだろう。もしかしたら、彼自身が何か大きな変化を迎えようとしているのかもしれない。
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