心療内科の診察室はいつもと同じ静けさに包まれていたが、今日は何か違う緊張感が漂っていた。私は最近、悪夢を見ることが増え、特にその中でも一つの夢が忘れられなかった。
「先生、少し怖い夢を見たんです…」
私は椅子に座り、少しためらいながら話し始めた。
先生はいつものように穏やかに微笑み、私を促した。
「どんな夢だったんですか?」
私は深呼吸をしてから、話を続けた。
「夢の中で、私は暗い廊下を歩いていました。周りは全く見えないほどの闇に包まれていて、唯一の光は私の持っている小さな懐中電灯だけです。その光も弱々しくて、まるで何かがその光を吸い込んでいるかのように感じました。」
先生はメモを取りながら、優しい声で尋ねた。
「その廊下には、何か特別なものがあったんですか?」
「はい……廊下の両側にはドアがたくさん並んでいました。でも、全部が閉じられていて、なぜか開ける気にならなかったんです。まるで、何かがその先にいるって、感じたんです。」
私は一瞬言葉を止めたが、続けた。
「歩いていると、突然背後から足音が聞こえました。誰かが私の後ろをついてくるんです。振り返ろうとしたんですけど、なぜか振り向けなくて……ただ、どんどんその足音が近づいてくるんです。」
先生は少し緊張した面持ちで、さらに聞いてきた。
「その足音は、何かあなたに対して危害を加えようとしていたんでしょうか?」
「わからないんです……でも、その足音がだんだん大きくなって、もうすぐ背後に何かがいるって感じがして、走り出そうとしたんです。でも、足が動かない。まるで床に縛りつけられているようで……その時、背後から誰かが私の肩に手を置いたんです。」
私はその瞬間の恐怖を思い出し、鳥肌が立つのを感じながら続けた。
「その手は冷たくて、重い……まるで人間の手じゃないような感触で、何か異様に長い指が私の肩に食い込むように置かれたんです。私は逃げ出したかったんですけど、体が完全に硬直してしまって……その時、背後から低い声が聞こえてきたんです。」
先生は少し身を乗り出して、真剣に聞き入っていた。
「その声は、何を言ったんですか?」
「その声が言ったんです……『お前は次だ』って。その言葉が耳に響いた瞬間、体中が凍りつくような感覚に襲われて、心臓が止まりそうでした。しかも、その声がだんだん私の耳元に近づいてきて……最後に、何か冷たい息が耳にかかったんです。」
私はその時の恐怖を思い出し、体が震えた。
「そこで、突然目が覚めたんです。目が覚めた時も、まだ肩にその手の感触が残っているようで……現実なのか夢なのか、わからなくなってしまうくらいリアルでした。」
先生は少し考え込み、穏やかに聞いてきた。
「その夢を見る前に、何か特別な出来事があったんですか?」
「特に思い当たることはないんです。ただ、最近何かに追われているような感覚があって、でも何かが迫ってきているっていう不安感が続いているんです。夢の中でも、その感覚が強くなっている気がします……。」
私はふと、何か思い出したように口を開いた。
「そうだ……夢から目が覚めた後、なんとなく不安な気持ちで鏡を見たんです。そしたら……肩にうっすらと指の跡みたいな痕が残っていたんです。もちろん、すぐ消えたんですけど……でも、それを見た瞬間、本当に背後に何かがいたんじゃないかって感じてしまって。」
その瞬間、先生の表情がわずかに変わった。背筋が凍るような感覚が、診察室に漂った。
先生は少し戸惑いながらも、冷静さを保とうとしたが、どこかでその夢の話が頭にこびりついているようだった。そして、最後に静かに言葉を絞り出した。
「それは……まるで夢が現実に侵食してきているようですね。もしかしたら、夢と現実の境界が一時的に薄れているのかもしれませんね。」
しかし、その言葉を口にした先生自身が、夢の話がただの幻想ではないかもしれないという恐怖にとらわれているように見えた。
診察室を後にしながら、私はふと先生の表情を思い出した。まるで、私の話を聞き終えた後に何かを感じ取ったようだった。夢はただの夢だと自分に言い聞かせながらも、その背中に冷たい感触が蘇ってくるのを感じていた。
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