怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

迷い込む倉庫の闇 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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俺が警備員として夜勤している倉庫は、かなり広い。巨大な棚や段ボールが幾重にも積み重ねられ、迷路のような構造になっている。初めて来た時は、まるで迷路の中に迷い込んだような感覚だったが、仕事を続けるうちに、倉庫の構造も覚え、どこに何があるかは自然と頭に入るようになった。

だが、あの夜だけは違った。

いつも通り、夜中の巡回に出かけた。特に何もない静かな夜で、倉庫の中もいつものように冷え込んでいた。巨大な棚の間を歩き、いつも通りのルートで見回りをしていると、ふと、奥の方で物音がしたような気がした。普段ならあまり行かないエリアだが、何か異常があるのかもしれないと思い、そちらに向かうことにした。

奥へ進むと、倉庫の構造が少しずつ複雑になってくる。棚が入り組んでいて、狭い通路が続いている。普段はあまり使われない古いエリアだったが、最近少しずつ使われ始めたらしく、荷物が増えているようだった。

しばらく進んでいると、何だか道が変だと感じ始めた。いつものルートなら、この辺りで通路が広くなり、出口へ向かう道が見えてくるはずなのに、どこまでも棚が続いている。何度も同じような通路を通っている気がしてきた。

「おかしいな…」と思い、来た道を戻ろうとしたが、戻る方向も同じような棚ばかりで、出口が見つからない。完全に迷ったと気づいた時には、すでに全身が冷や汗で濡れていた。

何度か試みたが、どの道も同じように見えて、まるで迷路に迷い込んだようだった。焦りが募り、足早に通路を進むが、どれも同じような場所に戻ってきてしまう。まるで倉庫そのものが形を変え、俺を閉じ込めようとしているかのような感覚に襲われた。

そして、さらに奇妙なことに気づいた。今まで聞こえていたはずの足音が、自分のものだけではないように感じ始めた。どこか遠くから、別の誰かが歩いているような気配がする。

「誰かいるのか?」と声を出してみたが、返事はない。だが、確かに足音は続いていた。遠くでカツ…カツ…と規則正しい音が反響するように聞こえる。その音は、まるで俺の動きに合わせているかのようだった。

焦りが頂点に達し、俺は懐中電灯を振り回しながら出口を探し始めた。だが、どれだけ進んでも棚は途切れることなく、同じ景色が繰り返されるだけだった。そして、その足音も次第に近づいてくるように感じた。

もう限界だと思い、携帯を取り出して助けを呼ぼうとしたが、なぜか電波が一切入らない。倉庫の中で電波が途切れることは今までなかったのに、この時だけは、まるで外の世界との繋がりを断たれたかのように、全く使えなかった。

その時、急に足音が止んだ。あたりは静まり返り、冷たい空気が肌にまとわりついてくる。心臓が激しく鼓動しているのが自分でも分かるほどだった。そして、ふと背後に誰かの気配を感じた。

振り返ると、そこには何もない。ただ、暗闇が広がっているだけだ。しかし、確かに誰かがいる、そう感じた。全身に鳥肌が立ち、息が詰まりそうになった。

その時、倉庫の奥からかすかに声が聞こえた。低く、囁くような声で、「ここからは…出られない…」と言っているように感じた。俺は恐怖に駆られ、無我夢中で走り出した。どこに向かっているのか分からないまま、ただ走り続けた。

どれだけ走ったか分からないが、突然目の前に見慣れた通路が現れた。そこは、俺が普段通るメインの通路だった。胸を撫で下ろし、少しずつ歩調を緩めた。しかし、何かが違う。通路の様子が、微妙に異なって見えるのだ。普段と同じはずの照明も、どこか薄暗く、不気味に感じられた。

「やっと戻れたのか…」と思いつつも、どうしても引っかかる違和感が胸に残った。急いで出口に向かおうと歩き始めたその時、またあの足音が聞こえ始めた。さっきよりも遥かに近い、すぐ背後に迫っているような音だった。振り返ることができないまま、俺は全身が硬直した。足音がゆっくりと俺に近づいてきて、すぐそこまで来ている。

「早く逃げろ…」心の中で叫んでいるのに、体はまったく動かない。まるで足元が地面に縫い付けられているかのようだった。足音は止まり、俺の背後で何かが息をする気配がした。

「見てはいけない…」そう思いながらも、恐怖に駆られて振り返ろうとしてしまう自分がいた。全身が震え、冷や汗が止まらない。

その時、倉庫の中の照明が一瞬パチッと音を立て、暗闇に包まれた。完全な闇の中で、俺は恐怖に押しつぶされそうになりながらも、ただじっと立ち尽くしていた。目の前には何も見えず、周囲の空気が圧迫されるような重さを感じる。

「ここからは…出られない…」

またあの声が囁いた。今度は、すぐ耳元で。ゾッとするほど冷たいその声に、もう耐えられなかった。無我夢中で暗闇の中を手探りで進み、必死に出口を探し続けた。

そして、突然――足が止まった。

目の前に、倉庫の出口が見えたのだ。安堵感が一気に込み上げ、俺は全速力でその出口に向かって走り出した。冷たい夜風が顔に触れるのを感じ、ようやく倉庫の外に出ることができた。

「助かった…」そう思い、荒い息を整えながら振り返ると、倉庫は静まり返っていた。あの不気味な足音も、声も、もう聞こえない。ただ、あの巨大な倉庫が暗闇の中に佇んでいるだけだった。

俺はすぐにその場を離れ、警備室に戻った。時計を見ると、まだ夜中の3時過ぎだった。あの出来事は現実だったのか、それともただの悪夢だったのか、全く分からないままだ。

そして、あの夜の出来事を誰にも話すことなく、ただ心の奥底に封じ込めている。

…それでも、時々思い出すのだ。

あの足音と、耳元で囁く声を。

まるで、今でも俺を見つけようとしているかのように。



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