私は、夜間のオフィスビルの警備員として働いている若者だ。体力には自信があり、夜の仕事はそれほど苦ではない。深夜は静かで、人の出入りもほとんどないため、基本的にはモニターを監視しながらフロアを見回るだけだ。それでも、静まり返ったビルを一人で歩くのは、時折少し不気味に感じることもある。
その夜もいつものように、ビル内の巡回に出かけた。時計は午前2時を回り、ビルは完全に無人だった。足音だけが廊下に響き、時折聞こえる空調の音が静寂を破る。異常がないことを確認しながら、私は1階のロビーへ向かった。
ロビーに差しかかると、ふと視界の端に動く何かを感じた。私は反射的にそちらを見たが、何もない。気のせいかと思い、再び歩き出したその瞬間、今度ははっきりと見えた。ロビーの遠くの通路を、何かが動いている。
「誰かいるのか…?」
私は一瞬、社員か何かが残っているのかと思ったが、よく見ると異様な光景が目に飛び込んできた。それは、膝下だけの足が、まるで何もない体を支えるように、ゆっくりと歩いているのだ。足だけが宙に浮いているわけではなく、普通の人間が歩くように左右交互に地面を踏みしめている。しかし、膝下しか見えない。
「なんだこれは…」
私は心臓が一瞬止まるような感覚に襲われたが、目をそらすことができなかった。恐怖はあったが、それ以上にその異常な光景が現実感を奪っていく。私は足元に根が生えたようにその場に立ち尽くし、膝下の足がゆっくりと歩いていくのをただ見つめていた。
だが、何かに突き動かされるように、私はその足を追いかけることにした。理屈では説明できない。だが、その光景をただ見過ごすわけにはいかなかった。警戒しつつも、その足がどこへ向かうのか確かめたくなったのだ。
恐る恐る歩き出すと、その足はまるで私に気づくことなく、ゆっくりとしたペースで進んでいく。廊下を進み、曲がり角をいくつも通過していく。私は距離を保ちながら、その不気味な足を監視し続けた。
「本当に、ただの足…」
間近で見ても、上半身や残りの体はどこにも見当たらない。あるのは膝下だけだ。しかし、その足は確かに歩いている。音もなく、ただ静かに廊下を進んでいく。私の心臓は早鐘を打っていたが、なぜか体が勝手に動いて追いかけ続けていた。
やがて、その足はロビーに向かい、エントランスの自動ドアへと近づいていった。私は少し離れたところから、じっと見守るしかなかった。足が自動ドアの前に立ち止まると、一瞬ドアが反応するかと思ったが、足はそのまますり抜けるようにドアの向こう側へと消えていった。
「…嘘だろ?」
驚愕しつつ、私は慌ててその後を追い、エントランスの自動ドアに向かって駆け寄った。しかし、私がそのドアの前に立つと、ドアは反応せず、閉じたままだった。いくら近づいても、ドアは開かない。外へ出てその足を追いかけることはできなかった。
私はその場で立ち尽くし、外の闇の中に消えていった膝下の足を思い返していた。ドア越しに外を見ても、何も見えない。ただ静寂だけが再びビル内に戻り、先ほどの異常な出来事がまるで夢だったかのように感じた。
だが、確かに見た。膝下だけの足が、確実にここを歩いていたのだ。
私は自動ドアの前に立ったまま、その足の正体が何だったのか、考える余裕すらなく、ただ恐怖に震えていた。
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