私は深夜の警備員として、オフィスビルを見回るのが仕事だ。このビルは広く、夜中は静まり返っている。私が働く時間帯は、ほとんど人がいないため、巡回する際には静寂の中で自分の足音だけが響く。
その夜もいつものように、各階を巡回していた。特に異常はなく、ただ淡々とフロアを見回っていた。照明も最低限に抑えられており、人気のないオフィスはまるで別世界のようにひっそりとしていた。
ふと、オフィスの一角で電話が鳴り響いた。こんな時間に電話がかかってくるなんて珍しい。誰もいないはずのオフィスで鳴り続ける電話に、何となく不安な気持ちがよぎった。だが、仕事柄、無視するわけにもいかない。私は電話に近づき、受話器を手に取った。
「はい、○○オフィスビルの警備です。」
返事があるまで数秒の沈黙が続いた後、ようやく相手が口を開いた。しかし、その声はどこか不自然だった。日本語なのは間違いないが、言葉の意味がさっぱりわからない。
「境界が…ずれている。侵入点が…ずれた、修正せよ…」
相手の声は、低く抑揚がなく、まるで感情がないようだった。何かの業務連絡かと思いきや、内容が全く理解できない。私の頭は混乱したが、とりあえずもう一度確認しようと、電話口に向かって言った。
「すみません、どちらにおかけですか?こちらはオフィスビルの警備ですが…」
しばらく沈黙が続いた後、再び相手が話し始めた。
「識別エラー…修正不可…次元コードの修正が必要だ…」
再び、意味不明な言葉が続く。次元?コード?何を言っているんだ。相手の言葉が全くつかめず、私はますます混乱した。
「申し訳ありません、どちらにお電話を?こちらは警備の者ですが…」
もう一度確認しようとしたが、相手は少しの間沈黙した後、突然声のトーンを変えた。
「…あなた、そちらの世界の者か?」
その問いかけに、私はぎょっとした。そちらの世界?何を言っているんだ?相手の言葉が頭の中で反響し、得体の知れない不安が押し寄せてきた。
「…ええ、そうです。こちらは普通のオフィスビルです。電話のかけ間違いでしょうか?」
私はとにかく早くこの電話を終わらせたい気持ちでいっぱいだった。すると、相手が再び口を開いた。
「ああ、電話する世界を間違えました。失礼。」
そう言うと、電話は突然切れた。
私はしばらく受話器を手にしたまま、ぼんやりと立ち尽くしていた。電話する「世界」を間違えた…?普通なら「番号」を間違えるはずだ。だが、相手は「世界」と言った。そんな馬鹿げたことがあるだろうか?
電話の音は止まり、再びオフィスは静寂に包まれたが、私はその場からしばらく動けなかった。自分が今どの世界にいるのか、何となく不安に感じながら、私はゆっくりと受話器を置いた。
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