私は、夜間の警備員として働いている若い男だ。深夜の仕事は人も少なく、基本的にはモニターを見ているだけなので静かで楽だと思っていた。オフィスビルの警備はそこまで難しいものではない。たまに残業で遅くまで働いている社員がいることもあるが、何か問題が起きることはほとんどなかった。
しかし、その夜は違っていた。
警備室でモニターを見ていた時のことだ。午前2時を過ぎ、静まり返ったビルの映像がいくつも並ぶ中、一つのモニターに人影が映った。若いサラリーマン風の男性が廊下を歩いている。スーツを着ている姿から、ビルに入っている会社の社員かもしれないと思ったが、この時間にしては少し妙だ。いつもならこの時間帯には誰もいないはずだからだ。
「残業か…それとも誰か忘れ物でも取りに来たのか?」
念のため、その人物の様子を確認することにした。警備員の仕事は異常があればすぐに対応することだし、何かトラブルがあるといけない。私は無線を持って、その男性がいたフロアへ向かった。
エレベーターを降り、廊下に出ると、モニターで見た通りのサラリーマン風の男性がいた。背広を着て、書類を手に持っている。その姿は、一見すると普通の若いビジネスマンだ。しかし、何かが違和感を引き起こしていた。
近づいてみると、彼の外見がどこかおかしいことに気づいた。最初は何が変なのか分からなかったが、よく見ると、髪質が異常だ。人間の髪とは違い、まるでプラスチックや人工物のように硬く光沢がある。さらに、彼の黒目も通常の人間とは異なっていた。黒目の中に奇妙な色が混じっており、どことなく不自然な光を放っている。
私はその場で立ちすくみ、彼をじっと見つめてしまった。そして次第に、彼の体全体が不気味に見えてきた。頭と体のバランスが微妙に狂っている。手足の長さも違和感があり、何かが歪んでいることが明らかになってきた。まるで、誰かが人間の姿を模倣しようとして、うまく作れなかったかのような不完全さがあった。
それに気づいた瞬間、背筋が凍りつく思いがした。これは普通の人間ではない。何か別の存在がそこにいる。
私がぎょっとして後ずさりすると、その男性がこちらをじっと見つめ、突然口を開いた。
「あ、私見えてますか?失礼しました。」
彼の声は不自然に片言の日本語で、言葉自体は理解できるものの、抑揚がなく感情が感じられない。その瞬間、彼の体がゆっくりと薄れていくように消えていった。まるで煙のように、目の前から完全に姿を消してしまったのだ。
私はその場に立ち尽くし、心臓の鼓動が耳の中で響くのを感じた。何が起きたのか理解できず、全身に冷や汗が流れた。確かに、そこに「何か」がいたはずだ。だが、それが何であるかを知る術はなく、ただ恐怖だけが残った。
その後も何度も周囲を確認したが、彼の姿は二度と現れなかった。警備室に戻り、モニターを再確認してみても、彼の姿は一切映っていなかった。あれは幻だったのか、それとも何か異次元の存在だったのか——その答えは今もわからないが、私はそれ以来、ビルの中で一人になることが怖くなってしまった。
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