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深夜の警備員の体験 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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俺は、都内のとあるビルで夜勤の警備員をしている。昼間は普通のオフィスビルだが、夜になると静寂が広がり、まるで別の場所のように感じることがある。夜勤は慣れていたが、ある夜の出来事だけは、今でも忘れることができない。

その日は、いつも通り夜10時からの勤務だった。夜中になるとビルは完全に閉鎖され、俺一人だけが全フロアを巡回する。1時間おきに定められたルートを回るのが俺の仕事だ。普段は何も起こらないし、せいぜいエレベーターの電気がちらつくくらいの些細なことがあるくらいだ。

午前2時、いつものように巡回を始めた。最初のフロアは何も異常がなかったが、エレベーターで3階に降りた時、妙なことに気付いた。廊下の突き当たりにある会議室の電気が、ぼんやりとついている。昼間は使用される部屋だが、夜は誰もいないはずだ。俺は不審に思い、急いで確認に向かった。

会議室のドアを開けると、室内は静まり返っていて誰もいない。だが、なぜかテーブルの一角にだけ椅子が引かれていた。まるで誰かが座っていたかのように。俺は不安を感じながらも、その椅子を元の位置に戻し、部屋の電気を消して巡回を続けた。

次のフロアに向かうためにエレベーターに戻ろうとしたその時、背後からかすかな音が聞こえた。

「ガタン…」

振り返ると、さっき片付けたはずの椅子がまた引かれていた。しかも、今度はまるで誰かが座っているかのように、こちらに向けられていた。ぞっとした俺はすぐにその場を離れ、エレベーターに飛び乗った。

エレベーターが動き出すと、ふと奇妙なことに気づいた。エレベーターの行き先表示が、俺が押していない「地下1階」を示していた。そんなはずはない。俺は1階に戻るつもりだったのだ。

「まぁ、機械の不具合だろう」そう思いながらも、俺の心臓は早く脈打ち始めた。地下1階は普段、誰も使わない倉庫があるだけだ。そこに行く必要などない。

だが、エレベーターはゆっくりと地下1階に向かって降りていく。そして、扉が「チン」と音を立てて開いた。薄暗い地下の廊下が、静かに目の前に広がる。そこには誰もいないはずなのに、冷たい空気が流れ込んできた。気味が悪くて、すぐに「閉じる」ボタンを押そうとしたが、なぜか指が動かない。まるで何かに引き止められているかのように。

その時、地下の奥からかすかに足音が聞こえた。

「カツ…カツ…」

俺はエレベーターの奥に引っ込んで息を潜めた。音は次第に近づいてくる。それは靴音のようだったが、何かが違う。まるで足が重く引きずられているような、不自然な音だった。そして、廊下の角から、白い影がゆっくりと現れた。

それは、人の形をしているようだったが、顔は見えない。髪の長い何かが、エレベーターの方へとゆっくり近づいてくる。俺の目はその影に釘付けになったが、全身は凍りついて動けなかった。近づくにつれ、その影が顔をこちらに向けた瞬間、俺は咄嗟に「閉じる」ボタンを押し込んだ。扉が閉まる瞬間、その白い影の目と一瞬目が合った気がした。

エレベーターは再び動き出し、1階に向かって上昇した。息が詰まるほどの緊張感が体中を支配していたが、何とか1階に戻ってくると、俺はそのまま警備室に駆け込んだ。

それ以来、時折巡回中に、あの足音を再び聞くことがあるんだ。



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