私は定年後、静かな時間を過ごしたくて、オフィスビルの夜間警備員として働くことにしました。以前はデスクワークをしていましたが、リタイア後は体を動かす仕事も悪くないと思い、この仕事を選びました。夜のビルは静かで、他に人がいない分、落ち着いてモニターを監視できるのが気に入っています。
私の仕事は、警備室に設置された多数の防犯カメラのモニターを監視し、ビル内に異常がないか確認することです。廊下やエレベーター、駐車場まで、カメラはすべてを見渡せるように配置されています。普段は何も起こらず、静かな夜が続くことが多いのですが、その夜は違いました。
深夜2時を少し過ぎた頃、ふとモニターの一つに動きが映ったのです。最初は、夜中に残業している社員かと思いました。しかし、すぐに何かおかしいと感じました。その人影は、通常の歩く動作ではなく、まるで床の上を滑るように、スーッと移動しているように見えたのです。
「これは侵入者かもしれない…」
私は警戒して、その人影を追い始めました。次々とモニターを切り替え、人影が移動する先を確認していきます。奇妙なことに、どのモニターでもその影は同じように滑らかに動いているように見えました。通常ならカメラの視野から外れても、次のカメラに映るまで少し時間がかかるものですが、その人影は異常な速さで次々とカメラの前に現れました。
さらに気味が悪くなり、私はその人影をよりはっきり映し出すカメラの映像に切り替えました。すると、モニターに映し出されたその姿に、思わず息を飲みました。
人影は腰から上だけしか映っていなかったのです。まるで腰から下が消えたかのように、浮かんでいるように見えました。上半身ははっきりと見えていて、白いシャツのようなものを着ているのが分かりますが、足はない。私はその不気味な光景に背筋が凍りつく思いをしました。
「これは…一体何なんだ?」
恐怖におののきながらも、私はその人影を追い続けました。人影はビルの廊下を滑るように進み、やがてビルの奥にある行き止まりの壁へと向かっていきました。
人が立ち入ることもほとんどないはずです。私は息を止めて、その行方を見守っていました。
すると、その人影はゆっくりと行き止まりの壁に向かって進み、まるで何もないかのように、壁の中へと消えていったのです。
「消えた…」
私は何が起こったのか理解できず、しばらくモニターの前で呆然と立ち尽くしていました。冷や汗が背中を流れ、心臓が高鳴るのを感じながらも、何とか冷静さを取り戻そうとしました。次の日になれば、これが現実だったのか、それとも何かの見間違いだったのか、確かめることができるだろうと思いました。
次の朝、私はすぐにその録画された映像を上司に見せました。防犯カメラの記録には、確かにあの人影が映っており、行き止まりの壁に消えていく瞬間もしっかりと映像に残っていました。
上司は映像を黙って見た後、少し首をかしげました。そして、こう言いました。
「うーん、一応報告しておくが…こういうことは時々あるんだよな。特に夜勤をしていると、こんなことがまれに起こる。大事にはならないだろう。」
その言葉に、私は少し驚きました。まさか、こういった現象が他にも起きているとは思いもよりませんでした。上司は特に怖がる様子もなく、淡々とした態度でした。
「何もないだろうが、まあ、気になるなら時々カメラをチェックしておくといい。」
上司の言葉を聞きながらも、私はあの映像のことが頭から離れませんでした。あの不気味な人影、消えていく瞬間、そしてそれをあっさりと「時々あること」として流されてしまう職場の雰囲気。私はこれがただの偶然やエラーではないと感じています。
それ以来、私は警備を続けながら、いつまたあの人影が現れるのか、心のどこかで警戒しながら夜を過ごすようになりました。
■おすすめ
マンガ無料立ち読み
マンガをお得に読むならマンガBANGブックス 40%ポイント還元中
1冊115円のDMMコミックレンタル!
人気の漫画が32000冊以上読み放題【スキマ】
ロリポップ!
ムームーサーバー
新作続々追加!オーディオブック聴くなら - audiobook.jp
ページをめくってゾッとする 1分で読める怖い話 [ 池田書店編集部 ] 価格:1078円 |