喫茶店でアキラの話を聞く時間は、いつもながら私とリョウにとって特別な瞬間だった。アキラが語る体験談は、まるで異世界への入り口を垣間見るような感覚を覚えさせる。今回もアキラは静かにコーヒーを一口飲み、少し戸惑いながら話を始めた。
「今日は、ある意味不思議な依頼だった。直接的な霊的現象じゃなかったけど、今でも思い出すとゾッとするんだ。」
アキラは少し思い返すように目を細めた。
「数ヶ月前、ある男性から依頼が来た。その依頼内容が、最初はちょっと変わっていてな。『ある家の写真を撮ってほしい』って言うんだ。俺は最初、なんでそんなことを頼むのか訝しく思った。だって、ただの家の写真だぜ?家の外観や中を撮るだけの仕事だって言うんだ。」
アキラはその時の不思議な感覚を思い返しているようだった。
「その家は郊外にあって、しばらく誰も住んでいないらしい。何か曰くがあるのかとも思ったが、依頼主はそれについては一切話さなかった。ただ、『家の写真を撮ってくれればいいんです』とだけ言うんだ。まあ、依頼だし、それなりの金額も払ってくれるとのことで、特に危険な感じもないと思ったから、受けることにした。」
私とリョウはその不思議な依頼の内容に、とても興味を持ち先が気になった。
「その家に向かった時、確かに異様な感じがした。道中は何も変わらない普通の郊外の風景だったんだが、家に近づくにつれて、空気が重くなるような感覚があった。古びた家がぽつんと立っていて、外観はそんなに傷んでいなかったが、何か『気持ち悪い』ものが漂っている感じがしたんだ。」
アキラは少し言葉を選びながら、続けた。
「俺はカメラを構えて、その家の外観を何枚か撮った。特に異常はなかったけど、家全体にまとわりつくような不快感があったんだ。風も吹いていないのに、何かがそわそわと動いているような感覚が、背後から俺をじっと見つめているような気がしてな。まあ、それでも外観の写真を撮るのはすぐに終わった。」
「でも、その後家の中に入った時、さらにその感覚が強くなった。中はほとんど何もない、古びた家具がいくつか残っているだけだった。普通の廃屋と変わらないはずなのに、空気が重く、妙に冷たかったんだ。俺はその違和感を感じながらも、カメラを構えて部屋の写真を何枚か撮った。」
アキラの表情が少し険しくなり、私とリョウも緊張感を覚えた。
「どの部屋にも何か特別なものはなかった。だけど、その家全体に漂う『何か』が、ずっと俺を押しつぶしてくるような感覚があったんだ。何も起こらないけど、何かがそこにいるような…正体不明の気配を感じた。」
アキラは少し肩をすくめた。
「結局、その家の中を一通り撮影し終わって、特に何かがあったわけじゃなかったんだ。ただ、写真を撮っている最中、ふと『これを俺にやらせる理由があるな』って気づいた。依頼主が自分で写真を撮らずに、わざわざ俺に頼んだ理由が、何となくわかってきたんだ。おそらく彼も、あの家に近づくのが嫌で、何かを感じていたんだろう。」
「なるほど…依頼主も怖がってたってことか?」リョウが少し戸惑いながら聞いた。
「ああ、たぶんそうだ。でも、俺がその時感じた違和感以上に、実際に何が起こるわけでもなかったんだ。だから、家を後にして、写真を現像したんだ。」
アキラはここで少し間を置き、目を細めた。
「その写真を依頼主に渡した時のことだ。普通の写真もあったが、何枚かの写真が妙におかしかった。撮影したはずの場所が、完全に真っ黒になっていたんだ。まるで写真全体が黒塗りされているみたいに、何も写っていない。ただの黒い闇だ。家の中や外の風景が消えて、真っ黒な空間が写っていた。」
私たちはその言葉に鳥肌が立った。
「その写真を依頼主に渡した時、彼も驚いていた。だが、特に驚き以上の反応はなかった。まるで、そうなることを知っていたかのように、淡々と受け取ったんだ。その後、俺は何度もその現像した写真を見返したが、やはり何枚かは真っ黒なままだった。」
リョウが恐る恐る尋ねた。「その黒塗りの写真って、何だったんだ?」
アキラはゆっくりと首を振った。
「わからない。あの家には確かに何かがいたと思うが、具体的に何が写真に影響を与えたのかはわからない。霊的なものだったのか、それとももっと別の『何か』だったのか。ただ、一つだけ言えるのは、あの家はヤバいってことだ。」
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