俺たちは、町外れにある廃ビルが心霊スポットだという噂を聞きつけ、好奇心から深夜に侵入することにした。ビルは外観からして崩れかけていて、内部も予想通り荒れ果てていた。壁はひび割れ、床には瓦礫が散らばっている。ゴミとホコリが積もり、まさに「廃墟」という言葉がぴったりだった。
最初は笑いながら冗談を言い合い、気楽に探索していたが、数階登るごとに空気が重くなり、無言で足を進めるようになった。探索を終え、次のフロアへと向かうために階段を登り始めた時、俺はふと違和感を覚えた。
上のフロアが妙に明るいのだ。そして、階段自体も不自然にきれいだった。埃一つない床、無傷の手すり。まるで清掃されたばかりのようだった。仲間たちも気づき、顔を見合わせたが、誰も声を出さないまま階段を登り切った。
廊下に出るとさらに驚いた。老朽化はしているものの、電気がしっかりと点いており、壁や床も整っている。そして、最も奇妙だったのは、どこからともなく人の気配がすることだった。
俺たちは慎重に廊下を進んだ。すると、スーツを着た男女がせわしなく動き回り、まるでオフィスビルのように仕事をしていたのだ。信じられない光景に立ち尽くしていると、突然、スーツ姿の男がこちらに近づいてきた。
「君たち何?もしかしてお客さん?」
驚いた俺たちは返事もできないまま、その場に立ち尽くした。すると男は急に丁寧な口調で、「どんな物件をお探しですか?」と笑顔で問いかけてきた。そして、俺たち一人ひとりに「物件のチラシ」を手渡してきた。
あまりの異様さに俺は「いや、客じゃないです」と慌てて伝えた。すると、男の表情が一変し、冷たく「客じゃないの?じゃあ、邪魔だから出てって」と言い放った。ぞっとした俺たちはその場から逃げるように、下の階に向かって駆け下りた。
下の階に降りると、そこは再び荒れ果てた廃墟だった。暗く、埃っぽい廊下に戻ったのだ。しかし、階段を見上げると、上のフロアだけが今も明るく、清掃されたままだった。
俺たちは恐怖に駆られ、そのままビルを飛び出した。
ビルから少し離れたコンビニの駐車場で、俺たちは息を整えていた。全員が無言のまま、さっきの出来事を整理しようと頭の中で必死に考えていた。
「なあ…あれって、何だったんだ?」一人がぼそりとつぶやいた。「幻覚か何かか?」
確かに、冷静になればなるほど、あの異様な光景が現実だったとは思えなかった。廃ビルのフロアが突然きれいに整備され、人が働いているなんて、どう考えてもあり得ない話だ。誰かがあのビルを改装しているという情報も聞いたことがない。
俺たちは全員が混乱していた。夢か幻か、何かに騙されていたのか?しかし、その時、ふとポケットの中に何か固いものが入っているのを感じた。
取り出してみると…それは、さっき渡された「物件のチラシ」だった。4つ折りにされた数枚のチラシには、不動産物件の情報がぎっしりと書かれている。間取り、価格、築年数、そして「内覧受付中」の文字がくっきりと印刷されていた。
「なあ、これ…」俺が無言でそのチラシを広げると、他の友人たちも同じく自分のポケットを探り、次々とチラシを取り出した。
「これ、どう考えてもおかしいだろ…」誰もがその紙を凝視していた。俺たちは全員、この紙を手に持っていたことで、今までの出来事が「現実」だったとしか思えなくなってきたのだ。
それでも、怖くて信じたくない部分があった。けれど、このチラシは紛れもなく俺たちの手元に残っている「現実」だった。
後日、昼間に廃ビルをもう一度確認しに行った。俺たちは恐る恐るビルの外観を眺めたが、どう見てもすべてのフロアは荒れ果て、電気も通っていない。ただの廃墟だ。明るいフロアなど、どこにも存在しなかった。
しかし、あのチラシは今でも手元に残っている。あの日、あの場所で何が起こったのか…俺たちは今でもわからない。だが、確かなのは、あのビルには二度と足を踏み入れないということだ。
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