大手企業に勤める僕は、仕事にほとんどやる気がなかった。広大な敷地にはいくつもの棟が立ち並び、僕が働いているフロアもその一部だった。日々の単調な業務に飽きてしまい、僕はこっそり抜け出しては、使われていない老朽化した棟に忍び込み、30分ほどさぼるのがいつもの日課になっていた。
その廃棟は、電気も水も通っておらず、薄暗いままの寂れた空間だった。人の気配は一切なく、廊下に足音を響かせても、誰に見つかる心配もなかった。だからこそ、僕にとってはちょうどいい隠れ場所だった。
その日も、いつもと同じように仕事の合間を見計らって、こっそり廃棟に向かった。階段を上がり、3階の一角にある使われていない会議室に入り、壁にもたれて座る。室内は相変わらず薄暗く、外の光もほとんど入ってこない。静寂が心地よく、僕はしばしの休息に浸った。
だが、その時、ふと気がついた。廊下から微かに何か音が聞こえる。最初は気のせいかと思ったが、確かに、誰かがゆっくり歩いているような音だ。廃棟に人がいるはずはない…ここには誰も来ないはずだ。僕は立ち上がり、息を潜めて耳を澄ませた。
音は次第に近づいてきている。ゆっくりとした足音が廊下に響く。最初は風で何かが揺れているのかと思ったが、明らかに人が歩いている音だ。僕は一瞬、自分の胸の鼓動が大きくなっていくのを感じた。
気になって、会議室のドアにそっと近づき、隙間から廊下を覗き見た。しかし、廊下には誰の姿もない。なのに、足音はすぐ近くまで迫っているように聞こえる。廊下の奥を見つめていると、何かが異様だと気づいた。遠くの廊下が、いつもよりさらに暗く感じられたのだ。
突然、耳元でかすかな声が聞こえた。低く、掠れた声で何かを囁いているようだった。しかし、何を言っているのかはわからない。ただ、明らかに「何か」が僕のすぐ近くにいることは感じ取れた。
思わず、冷や汗が背中を流れ落ちる。僕は急いで会議室を出て、廊下を駆け抜けた。振り返ることなく、階段を駆け下り、廃棟を出るまで全速力だった。外の明るい光が視界に入った瞬間、ようやく息をつくことができた。
廃棟の入口から振り返ったが、当然、誰の姿もない。ただ、あの暗い廊下が不気味に静まり返っているだけだった。
それからというもの、僕は廃棟には近づかなくなった。何があったのかはわからない。ただ、あの日以来、あの場所には「何か」が確かに潜んでいると確信している。
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