怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

消えたメモ:誰が書いたのか 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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僕が住んでいるアパートは、築年数こそ少し古いものの、そこまで不便ではなく、静かで気に入っていた。最寄り駅からも近く、コンビニやスーパーも徒歩圏内にあるので、何不自由ない生活を送っていた。

ただ、ある日を境に、奇妙な出来事が始まった。

最初の異変は、ごく些細なことだった。出勤前に「忘れ物をしないように」と冷蔵庫に貼っていた付箋メモが、勝手に書き換えられていたのだ。

その朝、僕はいつも通り冷蔵庫の前に立ち、「今日は傘を持っていく」とメモしておいたはずの付箋を確認した。だが、そこにはこう書かれていた。

「窓を開けて。」

一瞬、目を疑った。確かに自分で書いたはずのメモが、全く違う内容に変わっていたのだ。あまりに不可解なことだったが、その時は疲れていて、自分が書き間違えたのだろうと深く考えずに家を出た。

しかし、それが始まりだった。

それから数日後、またしても異変が起こった。今度は、「スーパーに寄ること」とメモしていた付箋が、出かける前に確認するとこうなっていた。

「ドアを閉めて。」

その瞬間、背筋に冷たいものが走った。どう考えても、僕以外にメモに触れる人はいないはずだ。部屋に誰かが入った形跡もなく、友人や家族にこの場所の鍵を預けているわけでもない。けれど、何かが勝手に僕のメモを改ざんしている。

誰かがふざけているのか?それとも、僕の思い違いなのか?そんな疑問が頭を駆け巡るが、現実に起こっていることを否定することはできなかった。

ある日、僕は決心して、自分だけが理解できる暗号のようなメモを書いてみることにした。もし誰かがメモを勝手に書き換えているなら、その相手に意図を読み取らせないようにするためだ。

例えば、「次のゴミの日は火曜日」と書いていたものを、全く無意味な文字の羅列に変えておいた。「wht234ゴミftr火aa」。これであれば、仮に誰かがメモを見ても、内容を理解できず書き換えることはできないだろう。

数日後、恐る恐るそのメモを確認すると…やはり変わっていた。そこには、明確な文字が書かれていた。

「一緒に来て。」

もはや、寒気を感じずにはいられなかった。誰かが僕のメモに触れている。しかも、その人物は僕の試みを知っているかのように、メモを書き換えているのだ。

それからというもの、僕の生活は不安と恐怖に覆われた。メモは毎日のように書き換えられ続け、内容もどんどん具体的で奇妙なものになっていった。

「玄関を開けて。」
「後ろを見て。」
「こっちに来て。」

気が狂いそうな日々が続く中、ある夜、決定的な出来事が起こった。

その日、いつものように仕事から帰り、ドアを開けて部屋に入ると、冷蔵庫に貼っていたメモが何も書かれていないまっさらな状態で貼られていた。何も書かれていないこと自体が不気味に感じられ、心拍数が上がるのを感じた。

気味が悪くなって、メモを手に取った瞬間、僕のスマホが鳴った。画面を見ると、知らない番号だった。

恐る恐る電話を取ると、かすかな声で、「今、すぐにメモを見て」と囁かれた。

慌ててメモを確認すると、そこには赤いペンでこう書かれていた。

「後ろを見て。」

心臓が飛び出しそうになった。後ろを振り向く勇気がなく、ただその場で固まってしまった。冷たい汗が背中を流れるのを感じながら、何も考えられなくなった。

しかし、どうしても背後の存在感が気になり、意を決してゆっくりと振り向いた。

けれど、そこには誰もいなかった。何も変わらない部屋の中、ただしんとした静寂が漂っていた。

しかしその瞬間、もう一度スマホが鳴った。同じ番号からだ。震える手で電話を取ると、何も聞こえない静寂が広がっていた。

その出来事以来、僕はそのアパートを出ることにした。引っ越しの準備をしている間も、メモは何度も書き換えられていたが、もうそれに反応することもなかった。ただ、その場を一刻も早く離れることしか考えられなかったのだ。

今、新しい場所で生活をしているが、メモの恐怖は今も頭から離れない。あれは誰の仕業だったのか、どうして僕のメモに干渉していたのか、答えは一切わからないままだ。

だが、今でも時折、冷蔵庫に貼ったメモを見るたびに、あの赤い文字がまた現れるのではないかという恐怖が胸をよぎる。



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