大学生の時、僕は地方の古いアパートに引っ越した。家賃が驚くほど安く、築年数こそ古いものの、学生にはありがたい物件だった。だが、奇妙な点が一つあった。僕の住んでいたアパートの3階には「306号室」が存在しないのだ。
不思議に思い、管理人に聞いてみたが、「その部屋は使われていないから気にするな」と言われるだけだった。建物の構造を見れば、そこに部屋があるはずなのに、廊下には305号室と307号室の間に扉もなければ、番号も飛ばされている。
気にはなったが、安い家賃と立地条件に惹かれて、特に深く考えず生活していた。
ある夜、夜中に目を覚ますと、廊下の方から何か音がすることに気づいた。誰かがドアを叩くような音だった。「こんな時間に?」と思いながらも、誰かが酔っ払って間違えているんだろうと再び寝ようとした。しかし、次第に音は大きくなり、どんどん激しくなる。
我慢できずにドアを開けて廊下を確認すると、そこには誰もいない。だが、廊下の奥、ちょうど306号室があるはずの場所に、何かが動いているのが見えた。目を凝らしてみると、壁に薄く、人の影のようなものが映っていた。
恐怖に駆られ、急いで部屋に戻り、ドアを閉めた。しかしその夜から、毎晩決まった時間に、廊下の奥から音が聞こえるようになった。ドアを叩く音、かすかな足音、そして誰かが囁くような声。「…開けて…」
数日後、アパートの住人の一人とその話をしてみた。彼は一瞬、顔を強張らせた後、ポツリと話し始めた。「このアパート、昔306号室があったんだ。でも、住んでいた家族が突然、全員姿を消した。それ以来、誰もそこに住まなくなったんだよ…」
管理人も、その住人もそれ以上のことは話してくれなかったが、それからというもの、306号室が気になって仕方がなくなった。ある日、意を決して廊下のその場所へ行ってみることにした。
廊下の壁をそっと触れると、普通のコンクリートの感触が返ってきた。だが、ふと手のひらが一部沈んだような感触があり、よく見ると、壁にほんの小さな裂け目があることに気づいた。まるで、何かが無理やり封印されたかのような…
その夜、再び耳を澄ますと、いつもの足音と叩く音が近づいてきた。そして囁き声が、はっきりと聞こえた。
「…戻して…」
振り返ると、306号室があった場所の壁に、再び人の影が浮かんでいた。だが今度は、それがゆっくりこちらに向かってくるのが見えたのだ。
慌てて引っ越しを決意し、そのアパートから逃げ出した。あの306号室が何なのか、結局わからずじまいだったが、一つだけ言えるのは、その場所には何かが「閉じ込められている」ということだ。そして、それは今も、外へ出たがっている。
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