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深夜の足音:静寂の中の訪問者 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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僕が今のアパートに引っ越してきたのは、1年ほど前のことだった。2階建ての木造アパートで、古いけれど静かで、家賃も安く、環境は良かった。隣の住人とも顔を合わせることがほとんどなく、プライベートをしっかり守れるところが気に入っていた。

だが、ある日を境に、静かなはずの夜に不気味な出来事が起こり始めた。

その日は仕事が遅くなり、帰宅したのは夜の11時を過ぎていた。疲れてシャワーを浴びた後、ベッドに入って眠ろうとした瞬間、足音が聞こえた。アパートの廊下を誰かが歩いている音だ。夜も遅いし、珍しいことではないと最初は気にしなかった。

しかし、その足音が僕の部屋の前で止まり、しばらく立ち尽くしているような気配がしたのだ。誰かがドアの前に立っている。でも、ノックもせず、ただ立っているだけ。少し不気味に感じたが、誰かが道に迷っているか、間違っているだけだろうとその時は考えていた。

翌日、そのことは特に気にも留めず、普段通りの生活を送っていた。しかし、その夜も同じ時間に足音が聞こえてきた。廊下をゆっくり歩く音。そして、またしても僕の部屋の前で足音が止まった。

ドアスコープから覗いてみようかと思ったが、なぜか動けなくなってしまい、ただベッドの中で耳を澄ませるだけだった。しばらくして足音は消えたが、奇妙な違和感が残った。

その後も、足音は毎晩同じ時間にやってきた。夜の11時過ぎ、廊下をゆっくりと歩く音が響き、僕の部屋の前でピタリと止まる。だが、ノックも声もなく、ただ静かに立ち去るだけだった。

気味が悪くなり、隣の部屋の住人に何か知らないか尋ねようとしたが、隣の部屋からは返事がなかった。どうやら出かけているようで、その後も誰とも話す機会は得られなかった。

ある晩、ついにその足音の正体を確認しようと決意した僕は、11時前に部屋の電気を消し、スリッパを脱いでドアの前で待つことにした。足音の主が再び現れたら、すぐにドアを開けて確かめようと思っていた。

そして、11時が過ぎた。廊下から聞こえるお馴染みの足音。ゆっくりと近づいてきて、僕の部屋の前で止まった。

僕は息を殺し、ドアノブに手をかけた。そして一気にドアを開けた。

だが、そこには誰もいなかった。

廊下は静まり返っており、風もなく、足音を立てていたはずの人物の姿はどこにもない。廊下の端まで見渡しても、人影ひとつ見えなかった。

不安が一気に押し寄せ、ドアを閉めると、急いで鍵をかけた。足音の正体がわからないことに加え、毎晩続くこの現象が現実だということがますます恐ろしくなっていった。

その後、足音はさらに不気味な形で進展していった。毎晩のように足音が聞こえるのは変わらなかったが、ある晩、足音が部屋の中から聞こえてきたのだ。

それは、僕がいつも廊下で聞いていた足音と同じだった。スリッパを履いているような軽い足音が、今度は部屋の中を歩き回っている。恐怖で体が動かず、ただベッドの中で震えていたが、その足音は僕のベッドのすぐ横でピタリと止まった。

全身が冷たくなるのを感じたが、顔を上げることができなかった。誰かがいる、でも目を合わせることができない――そう感じた瞬間、足音はふいに消えた。

その晩、一睡もできなかった。

次の日、さすがにこのままでは生活ができないと思い、管理会社に連絡してみた。しかし、管理会社は「住人からは特に異常の報告はない」と言うばかりで、僕の話を取り合ってくれなかった。

どうしても耐えられなくなり、僕は引っ越しを決意した。数日後には新しい物件を見つけ、すぐに荷物をまとめ始めた。引っ越しの前夜、最後の夜を過ごしていると、またしても11時が近づいた。

「もう最後だから、関係ない」と思いながらも、どこかでその足音が気になっていた。

そして、11時。いつものように足音が聞こえてきた。

しかし、今回は違った。足音は部屋の前で止まらず、そのまま廊下を通り過ぎ、隣の部屋の前でピタリと止まったのだ。気づけば、隣の住人はいつもいなかったが、この時、初めてそれに気づいたような気がした。

その後、足音が消えると同時に、僕は深い安堵と同時に、何かに見られていたような感覚が残った。

結局、翌日僕は無事に引っ越した。あの足音の正体は、何だったのか。今もわからないままだ。ただ一つだけわかることは、あの足音は、僕が引っ越した今も、きっと誰かの前で止まっているということだ。



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