僕は、大学近くの図書館によく足を運ぶ。家で勉強するよりも集中できるし、静かな雰囲気が心地よい。何度も通っているうちに、図書館内のほとんどの本棚を把握していたし、どこに何があるかはすぐにわかるようになった。
ある日、レポートを書くために資料を探していると、いつもは気に留めない棚の一角で、一冊の本に目が留まった。やや古びた装丁で、背表紙には文字がかすれて読み取れない。引き寄せられるようにその本を手に取った。
表紙にはタイトルがない。何の本だろうと思いながら中を開くと、最初の数ページには何も書かれていなかった。さらにページをめくっていくと、文章が現れたものの、奇妙なことに内容は一切理解できない。文字が並んでいるが、まるで暗号のように意味を成していない。
「何だこれ…?」と首をかしげながら、閉じようとした瞬間、ページの端に何かが書き込まれているのを見つけた。鉛筆で書かれたメモのようだった。
「この本は借りてはいけない」
不意に背筋に冷たいものが走った。何か冗談めいたいたずらだろうか。それとも、単なる警告かもしれない。だが、そのメモの内容が妙に引っかかり、僕はその場で本を棚に戻した。
次の日も、いつものように図書館に行った。資料を集めていたが、ふと昨日のことが頭をよぎった。あの本は何だったのか。あれ以来、どうしても気になり、ついには再びその棚に向かってしまった。
棚に戻っていたはずの本が、なぜか今度は少しずれて飛び出していた。まるで、誰かが手に取ってそのままにしているようだった。僕は再びその本を手に取り、恐る恐る開いてみた。
今度はさらに不気味だった。ページをめくると、昨日はなかったはずのページに、鉛筆で大きくこう書かれていた。
「次に開くのはお前だ」
突然、ゾッとする感覚に襲われた。まるでこの本が、僕を狙っているかのような感覚だ。慌てて本を閉じ、元の場所に戻そうとしたが、なぜか手が震え、落ち着かない。
誰かがこの本にいたずらをしているのか?それとも、僕の知らない何かの力が働いているのか?その時点での僕にはわからなかった。ただ、もうこの本に関わりたくないという気持ちが強くなり、その日はそれ以上触れないようにして家に帰った。
しかし、数日後、図書館で勉強していると、どうしてもあの本が頭から離れなくなった。誰にも話せずにいたが、不気味さを感じつつも、逆に好奇心がどんどん膨らんでいった。結局、その日は意を決して、本を借りてみることにした。
貸し出しカウンターにその本を持って行くと、司書の女性がそれを見た瞬間、顔色を変えた。「この本は…貸し出しできません」と静かに言われた。
「え、どうしてですか?」と尋ねると、「これは貸し出し禁止の本なんです」と短く答えた。
なぜ借りられないのか、理由は教えてもらえなかった。司書の態度は明らかにおかしく、まるで僕にその本を手に取らせないようにしているようだった。疑問が残ったまま、僕はその日も家に帰ったが、不思議な感覚が心を離れなかった。
その夜、僕の家の電話が鳴った。今どき珍しい固定電話だが、滅多に使うことがないため、不意の着信に驚いた。画面を見ると非通知。
「もしもし?」と出ると、無音。電話の向こうからは何も聞こえない。しばらくすると、かすかなページをめくる音が聞こえた。まるで誰かが本を読んでいるかのような…。
すぐに電話を切ったが、気味の悪さが増していく。何かが僕を追いかけてきているような、そんな感覚だった。
翌日、図書館で再びその本を確認しに行った。しかし、本棚にその本はなかった。司書に尋ねても、「そのような本は元々ない」と言われた。
僕が確かに手に取ったあの本は、一体何だったのか。意味のわからないメモ、貸し出し禁止の理由も説明されないまま消えた本、そしてあの奇妙な電話。すべてがつながっているようで、全く答えが見えてこない。
今でも、あの図書館に行くたびに、あの本棚を見てしまう。しかし、その本が再び現れることはなかった。そして、何か得体の知れない恐怖が、今でも僕の背後に付きまとっている。
■おすすめ
マンガ無料立ち読み
マンガをお得に読むならマンガBANGブックス 40%ポイント還元中
1冊115円のDMMコミックレンタル!
人気の漫画が32000冊以上読み放題【スキマ】
ロリポップ!
ムームーサーバー
新作続々追加!オーディオブック聴くなら - audiobook.jp
ページをめくってゾッとする 1分で読める怖い話 [ 池田書店編集部 ] 価格:1078円 |