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鏡の向こうのもう一人:恐怖の朝の訪問者 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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数年前、僕は都会の小さなマンションに引っ越した。職場にも近く、設備もそこそこ整っていて、初めは特に不満はなかった。毎日が単調な日常の繰り返しで、特に奇妙なことや不可解な出来事もない、穏やかな生活を送っていた。

しかし、ある朝、僕の生活は突然変わった。

その日は、仕事の前に急いで朝の準備をしていた時のことだった。洗面所の鏡に向かって歯を磨いていると、ふと違和感を感じた。鏡の中に映る自分の動きが、ほんの少し遅れているような気がしたのだ。

最初は疲れているだけかもしれないと思い、気にしないことにした。だが、その違和感は日に日に大きくなっていった。鏡を覗くたびに、自分の反射がほんのわずかにずれて見えるような感覚が続く。

ある日、仕事が休みの日の朝、思い切って鏡の前に立ち、じっくりと自分の姿を見つめた。すると、目の前の自分が一瞬、こちらをじっと見返していることに気づいた。まるで、ただの反射ではなく、意志を持って僕を見つめているかのように。

心臓がドクドクと鳴り、嫌な汗が背中に流れた。「気のせいだ、鏡の反射は常に自分と同じだ」と自分に言い聞かせ、鏡の前を離れたが、その日以来、鏡の前に立つのが怖くなってしまった。

だが、それから数日後、さらに恐ろしい出来事が起きた。

いつものように朝、目を覚まし、寝ぼけたまま洗面所に向かった。鏡に映る自分をぼんやりと見つめながら顔を洗っていると、背後からコンコンというノックの音が聞こえた。家に一人でいるはずなのに、その音は明らかに洗面所のドアから聞こえてきたのだ。

「誰かが来たのか?」そう思い、鏡越しにドアの方を見た。ドアは閉まっているが、再びコンコンと音が鳴る。そして、次の瞬間、信じられない光景が目に飛び込んできた。

鏡の中の自分が、勝手にドアの方を振り向いていたのだ。

僕自身はドアの方を見ていない。だが、鏡の中の「僕」は、まるで誰かを迎え入れるかのように、ゆっくりとドアの方を振り返っていた。そして、ドアをじっと見つめている。

恐怖で身体が凍りつき、その場から動けなくなった。鏡の中の「自分」が何をしようとしているのか、全く理解できない。ただ、その視線は鋭く、まるでドアの向こう側に何かがいることを知っているかのようだった。

次の瞬間、鏡の中の僕が不自然な笑みを浮かべた。その表情は、自分が今まで一度も見たことのない、冷たく歪んだものだった。僕はもう我慢できず、その場を飛び出して部屋の外に逃げた。

心臓が激しく鼓動し、手足が震えていた。あの瞬間、鏡の中に映っていたのは、本当に「僕」だったのだろうか?それとも、何か他の存在が僕の姿を借りてそこにいたのか?

それ以来、洗面所の鏡を見るのが怖くなり、極力避けるようになった。鏡の前を通るたびに、またあの「もう一人」が自分を見返してくるのではないかと恐怖で震える。

結局、そのマンションには長く住むことができなかった。引っ越しをしてからは、同じような現象は起きていないが、時々思い出すたびに背筋が凍る。

あの朝、鏡の中で笑っていた「自分」は、本当に僕だったのだろうか。それとも、僕の生活の中に、何か異質な存在が入り込んでいたのか?

その答えは、今でもわからないままだ。



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