ファミレスで友人とランチを楽しみながら、いつものように軽い雑談をしていた。店内は明るく、周りのテーブルからは楽しげな話し声が聞こえてくる。
「最近どう?」私はサラダをフォークでつつきながら、友人に聞いた。
「まぁ、特に変わったことはないかな。仕事も忙しいけど、なんとかやってるよ。」友人はフライドポテトを一口食べながら、軽く笑って答えた。
「そっか。俺も特に何もないけどさ、この前、実家に帰ったら懐かしくなっちゃってさ。昔の写真とか見てたんだよね。」
「おぉ、実家か。最近帰ってないなぁ。子供の頃のことって、いろいろ思い出すと面白いよな。」友人はそう言って、少し目を細めた。
「そうそう、なんか昔の遊びとか、よくわからないルールで楽しくやってたよなぁ。懐かしいよ。」
「そうだな。俺も小さい頃、実家でよく遊んだ記憶があるけど…実家って言えば、ちょっと思い出したことがあるんだよ。」
友人が少し声を低めて話し始めたので、私は自然と耳を傾けた。
「小さい頃、俺の実家はけっこう広かったんだ。部屋も多くて、ちょっと古い家だったから、子供の俺にとっては、なんか探検するみたいで楽しかったんだよね。」
「おぉ、いいじゃん。広い家って子供にとってはワクワクするよな。」
「そうなんだ。でも、ある時から、その家で何か変なことが起こり始めてさ…今でもはっきり覚えてるんだけど。」
友人の表情が急に真剣になった。私はそれに気づいて、少し身を乗り出した。
「変なことって、どういうこと?」
「うん…その時、俺は小学生くらいだったんだけど、夜中に目が覚めることが多くなったんだ。特に理由もなく、突然目が覚める感じで。でも、ただの寝ぼけだと思ってたんだよ。親に話しても『気にしすぎだよ』って言われて。」
「まぁ、子供の頃って、夜に目が覚めることはよくあるもんな。」
「そう思ってたんだけどさ、ある夜のことなんだ。目が覚めたら、家の中がすごく静かで、何か違和感があった。なんて言うのかな…『音がない』って感じ?」
「音がない?」
「そう、いつもは微かに外の風とか、家の木のきしむ音とかが聞こえてるはずなんだけど、その時は何も聞こえなかったんだ。完全な静寂って感じでさ。」
私はその「音がない」という表現に、何とも言えない不安を感じた。
「それだけじゃなくて、その夜は何かおかしかったんだ。自分の部屋がいつもより少し違って見えたんだよ。明かりもつけてないのに、何か薄暗い光みたいなものが部屋の中に漂ってる感じがしてさ。」
「薄暗い光…?」私は自然と体が強張った。
「うん。普通、暗闇って真っ黒で、ほとんど何も見えないだろ?でも、その時は違ったんだ。部屋全体がぼんやりと見えるんだよ。まるで、何かがその光を発してるような感じで…けど、その光がどこから来てるのかはわからなかった。」
「それは…確かに不気味だな。」
「それでさ、その光をぼーっと見てたら、急に気づいたんだ。部屋の隅に、何かがいるって。」
「何かがいるって…それって、誰かいたってこと?」
友人は少し肩をすくめ、困ったように笑った。「いや、誰もいないんだ。でも、その部屋の隅の暗がりに、何かが『いる』って確信があったんだよ。見えないんだけど、そこにいることがわかる…そんな感じ。」
「え、それは本当におかしいな。実際に何か見えたわけじゃないんだろ?」
「そう。姿は見えない。でも、確かにその場所に何かがいるって感じるんだ。怖くなって、布団を頭からかぶったんだけど、なぜかその時だけは、どれだけ布団を引っ張っても、隙間からその『何か』の存在が消えなかったんだ。」
友人の話を聞いているうちに、私の背中には寒気が走った。
「結局、その夜は眠れなくて、朝までずっと布団の中で震えてた。親に言っても信じてもらえなかったけど、あの夜のことは今でも鮮明に覚えてるんだ。あれ以来、夜に部屋が少しでも違って見えたら、すごく怖くなってさ。」
「それから、同じようなことはあったのか?」
「何度かね。でも、その最初の体験が一番強烈だった。後は、時々ふとした瞬間に感じることがあったくらい。例えば、昼間なのに家の中の空気が急に重くなったりとか、部屋の中に誰かがいるような感覚が戻ってきたりとか…結局、その家から引っ越すまで、ずっと不気味なままだったよ。」
「そうか…それは確かに気味悪いな。昔の家って、不思議なことが多いもんな。」
友人は黙ってコーヒーを飲み、私もどう返事をすればいいのか迷っていた。ファミレスの明るい雰囲気が、話を聞くうちにどんどん遠ざかっていくような気がした。
「結局、あれが何だったのかはわからないけど、俺にとっては、あの家の静けさが一番怖かったんだよな。何も音がしないって、逆に恐ろしいことなんだって、その時気づいたんだ。」
「音がない静けさか…それ、なんかわかる気がするよ。」私は友人の話に共感しつつ、言いようのない不安を感じた。
その後、話題を変えたものの、友人が語った「音のない夜」の記憶は、しばらく頭から離れなかった。
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