田中雄介は、いつものように倉庫で書類整理をしていた。古びた段ボール箱の中から、他の書類と異なる一冊の古い手帳を発見した。それは、時代を感じさせる風化した紙でできており、表紙にはかすかに「実験記録」と書かれていた。雄介は手帳をめくり、その中身を確認することにした。
中に書かれていたのは、どうやら江戸末期か明治初期のもので、当時の実験に関する詳細な記録だった。内容を読み進めると、それはただの科学実験ではなく、何やら不気味な「心霊実験」を行った記録であることがわかってきた。
目次
1回目の実験 - 降霊の試み
日付:明治元年9月3日
実験者:S博士、M助手、K助手
本日、我々は長らく計画していた「降霊実験」を遂に開始した。現代科学の力を借り、霊をこの世に呼び戻す試みである。西洋から導入した最新の機器を使用し、霊的なエネルギーを増幅させる装置を組み立てた。装置は霊媒の近くに設置され、霊媒に霊が憑依しやすい環境を作り出すことが目的だ。
初回の実験では、霊媒師が霊の存在を感じたが、明確な形での降霊は確認できなかった。霊媒師は体が重くなり、何かが近づいてくる感覚を感じたと言っていた。M助手は、この現象を霊的なエネルギーが集まりつつある兆候だと考えている。次回の実験では、さらに装置の出力を強化する予定だ。
2回目の実験 - 不安の兆し
日付:明治元年9月7日
実験者:S博士、M助手、K助手
2回目の実験では、前回の結果を踏まえ、出力を強化した状態で試みを行った。霊媒師が再び霊に呼びかけ、装置が反応を示し始めた。数分後、実験室の温度が急激に低下し、異様な冷気が漂い始めた。
霊媒師は突然、頭痛を訴え、霊が接触していると感じたようだ。霊媒師の表情は変わり、声が震え始めた。「ここに誰かがいる」と、彼は低い声で呟き、周囲を見渡した。しかし、目に見える形での霊の姿は依然として確認できなかった。
この結果は成功に近づいているものの、我々は不安を感じていた。特にS博士が異様に神経質になっており、「この装置は想像以上の力を引き出しているかもしれない」と言い出した。M助手もまた、何かを感じ取っている様子だった。次回の実験は慎重に進める必要があるだろう。
3回目の実験 - 成功と狂気の始まり
日付:明治元年9月12日
実験者:S博士、M助手、K助手
今日、我々はついに降霊に成功した。霊媒師が霊との接触を試みる中、装置が再び反応を示し始めた。実験室の温度が急激に下がり、霊媒師の周囲に異様な気配が漂い出した。霊媒師の顔は引きつり、瞳孔が拡大していた。やがて、彼の体が震え始め、重い沈黙が実験室を覆った。
その時、突然霊媒師の口から異様な声が漏れ出した。普段の彼の声とは違い、低く不気味な響きを持つ声だった。「私はここにいる…」という言葉が彼の口から発せられた瞬間、全員が凍りついた。霊が確実にこの場所に降りてきたのだ。
だが、その成功は一瞬の安堵に終わった。霊媒師の顔が徐々に異常な笑みを浮かべ始め、彼の動きは次第に不自然になっていった。まるで操られているかのようだった。突然、霊媒師が実験台から立ち上がり、狂気に満ちた叫び声を上げた。「彼がここに来た!」と叫びながら、彼は暴れ出し、装置に突進していった。
我々は慌てて実験を中断しようとしたが、その時、S博士が手を押さえて倒れ込んだ。彼は顔を青ざめさせ、「あの霊が私の中にいる…」と呟きながら震えていた。M助手も何かに取り憑かれたように、呆然と立ち尽くしていた。
4回目の実験 - 破滅と恐怖
日付:明治元年9月15日
実験者:S博士、M助手、K助手
我々は、実験を中止せざるを得なくなった。3回目の実験以来、S博士はまともな思考ができなくなり、M助手も体調を崩し、奇妙な行動を取るようになった。霊媒師は失踪し、消息不明となっている。
私はこの記録を残しているが、いつ自分の身にも何かが起こるか分からない。実験によって呼び寄せた霊は、確実に何かを持ち込んできた。我々の心の中に何かが入り込み、徐々に理性を奪っていくような感覚がある。
私は恐怖に怯えながら、これを書いている。いつか自分も狂気に取り込まれ、S博士やM助手のように正気を失うのではないかという恐怖が拭えない。これ以上、実験を続けることはできない。
終わりの恐怖
田中雄介は、最後の一文を読み終えると、深い静けさが倉庫に広がるのを感じた。書かれていたのは、当時の最先端技術を使って心霊現象を実証しようとした実験記録だったが、その結果は狂気と恐怖に満ちていた。
「降霊に成功したが、代償は大きかった…」
雄介は手帳を封筒に戻し、震えた手でそっと元の場所に戻した。この記録に書かれていた恐ろしい実験の顛末が、本当にあったのか、それとも何かの作り話なのか、彼には分からなかった。しかし、その内容は、あまりにも生々しく、現実味を帯びていた。
彼はしばらく静かにその場に立ち尽くし、書類整理に戻ることができずにいた。
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