ファミレスで友人と向かい合い、いつものように何気ない会話を楽しんでいた。ランチタイムの賑やかな雰囲気の中、私たちは軽い近況報告をしていた。
「最近、どう?」私はハンバーグにフォークを刺しながら、友人に尋ねた。
「まぁ、特に変わったことはないかな。仕事は相変わらずって感じ。」友人はコーヒーをすすりながら、肩をすくめて答えた。
「そっか、俺も特にこれといって何もないな。映画でも観に行きたいけど、最近いいのがなくてさ。」私はそう言って軽く笑ったが、友人の顔はどこか冴えないように見えた。
「実はさ…最近引っ越したんだよね。」突然、友人が話し出した。
「引っ越し?え、マジ?知らなかったよ。どこに?」
「ちょっと前にね、別のアパートに引っ越したんだ。家賃がすごく安くてさ、築浅だし立地もいいから、即決しちゃったんだよ。」
「それはいいじゃん!築浅で家賃も安いなんて、なかなかないだろ。」私は驚きつつも、少し羨ましく思った。
「そうなんだよ。でも…住み始めてから、なんかおかしいんだよね。」
友人の声が急に沈んだ。私は思わずフォークを止め、友人の顔をじっと見た。
「おかしいって、何が?」
「最初は全然気にしてなかったんだ。でも、よくよく考えてみたら、そのアパート、空き部屋がすごく多いんだよ。しかも住んでる人もほとんど見かけないんだ。なんか変だと思わない?」
「まぁ、珍しいかもしれないけど、そんなに気にすることかな?」私は首をかしげた。
「いや、そう思ってたんだけど、実際住んでみると、だんだん理由がわかってきたんだよ…」友人は少しため息をつき、テーブルに手をついた。
「理由って、何か問題でもあったのか?」私は興味津々で問いかけた。
「問題っていうか…なんていうのかな、最初は普通なんだよ。でも、部屋の中にいると、時々、急に空気が変わるんだ。風もないのに、何かが動いたような感じがするっていうか。」
「え、風がないのに?」
「そう。窓も閉めてるし、換気扇もつけてない。でも、突然、部屋の一角から冷たい風みたいなものがスーッと通り抜けるんだ。それが、ただの風じゃないって思ったのは、その『風』が動く方向がいつも同じ場所に向かってるんだよ。」
「同じ場所?」
「うん、部屋の奥のクローゼットなんだ。あのクローゼットに近づくと、なんだか寒気がしてさ。しかも、そのクローゼットの扉、閉めてるはずなのに、時々少し開いてることがあるんだ。」
「それは…ちょっと気味が悪いな。」私は思わず体が固くなった。クローゼットという言葉だけで、不安な気持ちがこみ上げてくる。
「まだあるんだ。」友人は続けた。「最初は自分の気のせいだって思ってたんだけど、夜中に起きたことがあってさ…部屋の照明、急にフッと暗くなることがあるんだよ。特に何も触ってないのに、ほんの数秒間だけ明かりが弱まるんだ。で、その瞬間、なんか視線を感じるんだよね。」
「視線…?」私はさらに身を乗り出した。
「そう。誰もいないはずの部屋の中で、何かがこっちを見ているような感覚がするんだ。だけど、周りを見渡しても、もちろん誰もいない。ただ、その一瞬だけ、背中に何かが張り付いてるような感じがして、怖くて動けなくなるんだ。」
友人の話に、私もだんだんと息が詰まりそうになってきた。ファミレスの明るい照明が、逆に不気味に感じ始める。
「それ、大家さんに何か言ったの?」
「いや、まだ言ってないんだ。でも、他にもおかしなことがある。例えば、部屋に戻ってきた時、何もしてないのに家具の位置が微妙にずれてることがあるんだ。最初は自分が知らないうちに動かしてたのかと思ったけど、あまりにも頻繁に起こるんだよ。机の角度とか、椅子の向きとか、細かいんだけど、絶対に変わってるんだ。」
「それは…引っ越しを考えたほうがいいんじゃないか?」私は真剣に提案した。
「そう思うよな。でも、どうも部屋自体には異常がないし、他の住人にも特にそういう話を聞かないんだよ。・・・・・・周りに人がいないってのは不気味だし、そもそも、このアパートに住んでる人たち、あまり話しかけてこないんだよな。みんな、何か隠してるような気がする。」
私は寒気を感じた。友人が住んでいるそのアパートには、何か説明できない不気味な要素が確実に潜んでいるようだった。
「結局、引っ越すかどうかは迷ってるんだ。でも、あの部屋、確かに何かがおかしい。築浅で安いって言っても、それには理由があったんだろうな…」
友人はそう言って再びため息をついた。私たちはしばらく無言でコーヒーを飲みながら、頭の中でその謎めいたアパートの光景を思い浮かべた。
格安物件には、それなりの「理由」がある――その事実が、重く私の胸にのしかかってきた。
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