ファミレスの席に座り、友人といつものように軽い雑談を交わしていた。時間はちょうどランチタイム。特に目的もなく、ただお互いの近況を話し合っていた。
「最近、仕事どう?」私はハンバーグセットを少しつまみながら友人に尋ねた。
「まぁ、ぼちぼちかな。忙しいけど、なんとかやってるよ。」友人はフライドポテトを一口食べ、微笑んだ。
「そっちは?」と聞かれ、私は何気なく最近見た映画の話をしながら、特に何事もなく時間が過ぎていった。お互いに特段変わったこともなく、いつものような会話が続いていたのだが――。
突然、友人が少し表情を曇らせた。
「実はさ、最近引っ越したアパートのことで、ちょっと話があるんだよ。」唐突な切り出しに、私は一瞬言葉を詰まらせた。
「引っ越し?前に住んでたところ、何か問題あったの?」
「いや、別に問題はなかったんだけど…今のアパート、すごく安かったんだよ。家賃が破格でさ。それで即決しちゃったんだ。」
「お、いいじゃん。安くてラッキーだったね。」
「そう思ったんだけどね…」友人の声が急にトーンダウンした。「住み始めてから、なんか変なんだよ。」
「変?どういうこと?」私はフォークを置いて、少し身を乗り出した。
「最初は普通に快適だったんだ。綺麗だし、周りも静かだし。だけど、住み始めて数日した頃から、夜になると、壁の向こうから変な音が聞こえるんだよ。」
「変な音?」私は思わず聞き返した。
「そう。まるで…何かが壁を引っ掻いてるような音。最初は隣の部屋の住人が何かしてるんだろうって思ってたんだ。でも、どうもおかしいんだよ。その音、夜中の同じ時間にだけ聞こえるんだ。しかも、隣の部屋、空いてるはずなんだよ。」
「空いてるって…どういうこと?」
「引っ越す前に、不動産屋が言ってたんだ。隣の部屋はしばらく空室だって。それに、アパート自体も古いからか、他に住んでる人も少ないみたいで、ほとんど顔を合わせることがないんだ。」
「でも、音が聞こえるってことは誰かいるんじゃないの?」
友人は首を横に振り、少し青ざめた表情を見せた。「それがさ、ある晩、壁の音があまりにも気になって、勇気を出して隣の部屋を確認しに行ったんだ。ノックしてみたんだけど、誰も出てこなかった。それどころか…扉の隙間から、中が真っ暗で、家具も何もないのが見えたんだ。」
私は身震いした。話の展開が想像以上に不気味になってきた。
「それだけなら、まだ気味が悪いで済む話だ。でも、その晩のことなんだよ…部屋に戻って寝ようとしたら、今度は部屋の天井からカタカタ音が聞こえてきたんだ。」
「天井から?まさか…上の階?」
「いや、俺の部屋、最上階なんだ。だから、上に誰もいるはずがない。天井裏なんてないはずなんだけど、音は確かにそこからしてたんだ。」
「それ…本当におかしいよ。大家さんに何か聞いてみた?」
友人は深く息を吐き、コーヒーカップを軽く傾けた。「もちろん聞いたよ。そしたら、大家さん、少し困ったような顔をしてさ。『その部屋には昔、一人暮らしの女性が住んでいたけど、数年前に引っ越して以来、誰も入ってない』って言われたんだよ。けど、そこから先の話はしてくれなかった。」
私は寒気を感じ、思わずコーヒーに手を伸ばした。「それで、最近もまだ音はしてるの?」
友人はうなずき、さらに低い声で話し続けた。「音だけじゃないんだ。最近、夜中に目が覚めると、誰かが部屋にいるような感覚があるんだ。振り向いても誰もいないんだけど、明らかに『誰か』の気配がある。しかも、その気配、だんだん近づいてくる感じがするんだよ。」
私は何も言えなくなり、ただ友人を見つめた。ファミレスの賑やかな空気が、急に静まり返ったように感じた。
「それでどうするつもり?」私はようやく口を開いた。
「まだ引っ越したばかりだし、すぐに出るのは難しいんだ。でも、もう我慢できそうにない。次に何かあったら、本気で考えないといけないかもな。」
友人の話は、ただの偶然や気のせいでは片付けられないほどの不気味さを帯びていた。安さに飛びついたアパートには、見えない何かが潜んでいるのかもしれない。
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