いつものファミレスで、友人と向かい合って軽いランチを楽しんでいた。明るい店内には、賑やかな話し声と食器の音が響き渡っている。私たちも、特に深い話をするわけでもなく、当たり障りのない会話を交わしていた。
「最近、どう?」私はパスタをフォークで巻きながら友人に尋ねた。
「まぁ、いつも通りかな。仕事は忙しいけど、なんとかやってるよ。そっちは?」友人は飲み物を飲みながら、軽く肩をすくめた。
「同じだね。最近は仕事と家の往復ばっかりでさ、あんまり変化もないかな。」
「そうだよなぁ。子供の頃の方が、もっと自由に遊べて楽しかった気がするな。」友人がふと懐かしそうに話し始めた。
「そうだね。子供の頃って、毎日が冒険みたいな感じだったよな。今考えると、なんであんなに外で遊ぶのが楽しかったんだろうって思うよ。」
「そうだな…特に俺、田舎に住んでたから、自然がいっぱいでさ。近くに住んでる友達も少なかったけど、外で一人で遊ぶのが好きだったんだよ。」
「田舎かぁ、それは楽しそうだな。広い自然の中でのびのび遊べるのって、今ではなかなかできないよね。」
「そうなんだよ。だけど、実はその時に体験した不思議なことがあってさ…」友人が少し声を落としながら言った。
「不思議なこと?」私は思わず身を乗り出した。
「うん。子供の頃、よく一人で外で遊んでたんだけど、俺が一人でいる時にだけ現れる『友達』がいたんだよ。」
「一人でいる時だけに現れる友達?それって…なんか想像の友達とか?」
「いや、実際にちゃんと話すし、一緒に遊ぶんだよ。その友達は、いつも森の中から現れて、一緒に遊んでくれるんだ。普通の子供と同じように会話もできて、無邪気に遊ぶんだけど、帰る時は必ず森の中に戻っていくんだ。」
「え、森の中から?道を通らずに?」
「そうなんだよ。普通だったら道を使うだろうけど、その子はいつも森の中に入って消えていくんだ。子供の頃はあまり気にしてなかったけど、今考えると、なんで森の中に入って帰ってたのか不思議で仕方ないんだよな。」
私は友人の話に引き込まれつつ、その光景を頭に描いた。田舎の広い自然の中で、ふと現れては一緒に遊んで、また森の中に消えていく友達――その姿は、どこか幻想的だ。
「でも、その友達って、他の子供たちとは遊ばなかったのか?」
「それがさ、絶対に俺が一人でいる時だけ現れるんだ。他の友達と一緒にいる時には、絶対に出てこないんだよ。だから、みんなにその子のことを話しても、誰も知らないって言われた。俺だけが知っている、森の中から現れる友達だったんだ。」
「へぇ…他の誰も知らないってのは、なんか不思議だな。それで、その友達とどんなことして遊んでたの?」
「普通にかくれんぼしたり、鬼ごっこしたり、あと虫取りとかね。森の中や川辺で遊ぶことが多かったな。すごく楽しかったよ。でも、やっぱりその友達が森の中に消えていく時だけ、何か変な感覚があったんだよね。」
「変な感覚って?」
「言葉にするのは難しいんだけど、例えば急に空気が重くなるというか、静かになって、森の中が急に深くなったような感じがしたんだ。彼が森に入って消えていくのを見てると、まるでその先に違う世界があるみたいに思えてさ。でも、その頃は特に怖いとは思わなかった。ただ、いつも同じように消えていくのが不思議でならなかったんだ。」
友人の話を聞いていると、何とも言えない奇妙さが心の中にじわじわと広がってきた。普通に遊んでいたはずの友達が、いつも同じ森の中に帰っていく――それが現実の出来事だったのか、それとも何か別の現象だったのかはわからないが、友人の語るその体験は確かに現実感があった。
「それで、その子はいつから現れなくなったんだ?」私はさらに尋ねた。
「たぶん、小学校の高学年くらいになってからかな。一人で遊ぶことが少なくなった頃から、現れなくなったんだ。それまでは毎回のように現れてたのに、気づいたら森の中で一人で遊んでても出てこなくなってた。今でも不思議なんだよ。あの子が一体何だったのか、全然わからないんだ。」
友人はコーヒーを一口飲んで、少し遠くを見つめた。私もその話を聞きながら、胸の奥にじわりと奇妙な感覚が残った。あの子供が現れなくなった理由や、森の中に消えていくその姿――全てが不思議に思えたが、結局は誰にもわからないまま、友人の幼少期の思い出として残っている。
ファミレスの明るい雰囲気に包まれながらも、友人の話が頭にこびりついて離れない。森の中から現れて、また森に消えていく「友達」は、一体何だったのだろうか――その答えは、今も誰にもわからない。
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