いつものファミレスで、友人とランチを楽しんでいた。時間は昼過ぎ、周りのテーブルもほどよく賑わっていて、軽い雑談が続いていた。
「最近どう?」私はフォークを手に取り、サラダをつまみながら友人に話しかけた。
「まぁ、特に大きな変化はないかな。仕事は相変わらず忙しいけど、何とかやってるよ。」友人は軽く肩をすくめながら、ハンバーグを一口食べた。
「そっか。それにしても、もう夏だし、子供の頃の夏休みとか思い出すよなぁ。何も考えずに遊んでたあの頃が懐かしい。」
「そうだな、子供の頃って、無邪気だったよなぁ。」友人は少し遠い目をしていた。「俺、田舎に住んでたから、あの頃の夏は特に思い出深いよ。」
「田舎か…のんびりしてそうでいいな。どんな風に遊んでたんだ?」
「そうだなぁ…友達も少なかったし、家もお互い遠いから、結局一人で遊ぶことが多かったんだよ。広い自然の中で、ただぼんやりしてるだけでも楽しかったけどな。」
「一人で?それって寂しくなかった?」
「いや、むしろ自由だったよ。あの頃は、特に何も考えずに遊んでたし。田舎だと自然が友達みたいなものだしさ。でも、実は…一つ、今でも不思議なことがあってさ。」
友人が少し言葉を選ぶように話し始めたので、私は自然と聞き入った。
「不思議なことって、どんなこと?」
「うん、当時は特に気にしてなかったんだけど…俺、一人で遊んでる時にだけ現れる『友達』がいたんだよ。」
「え?一人で遊んでる時に友達?それって、想像の友達ってこと?」
「いや、そうじゃないんだ。確かに、実際に誰かがそこにいるんだよ。いつも同じ場所に現れるんだけど、決まって俺が一人で遊んでいる時だけだった。誰かと一緒にいる時には絶対に現れなかったんだ。」
私は急に興味を引かれた。「どういうこと?どんな友達だったんだ?」
友人は少しためらいながら、続けた。「その友達って、子供の姿をしていたんだ。でも、顔とか服とか、あまりはっきり覚えてない。ただ、一緒に遊ぶ時はすごく自然な感じで、何も違和感がなかったんだよ。毎回、彼が現れると、なんとなく一緒に遊んでいたんだけど、今思えば、あれが普通じゃなかったことに気づくんだ。」
「普通じゃなかったって、どういう意味?」
「例えば…その友達が現れると、周りの景色がちょっと変わるんだよ。空が少し曇ったり、風が吹いてきたりして、何となく空気が変わる感じ。でも、その時は全然怖くなかった。むしろ、一緒に遊んでいると、いつもの場所が違う世界みたいに感じたんだ。」
「その友達、どうやって現れるんだ?急に?」
「うん、まさに急にだよ。最初はいつも一人で遊んでるんだ。川辺とか、草むらとか、田んぼのあぜ道とかね。でも、ふと気づくと、その友達が横にいるんだ。いつの間にか来てて、何も話さないんだけど、遊ぶ流れになってる。だから、子供の頃の俺は、それが特に変だとは思わなかったんだよ。」
「そっか。でも、何も話さないのか?」
「そう、不思議なんだけど、会話はほとんどなかった。でも、一緒に遊んでると楽しくて、時間があっという間に過ぎてたんだ。遊び終わる頃には、その友達はふっと消えるんだ。いつも自然に消える感じで、追いかけることもできなかったんだよ。」
「その友達がいなくなる時も、いきなり?」
「そう、気づいたらいなくなってて、急にまた現実に引き戻される感じだったんだ。例えば、遊んでた場所が急に元の静けさに戻るような。風が止んで、空気が一変する感じ。今考えると、あの変わり方が妙だったんだよな…」
友人の話を聞いていると、何とも言えない不気味さがこみ上げてきた。特に説明のつかない「友達」の存在が、現実と非現実の境界を曖昧にしていた。
「その友達、他の誰かに見せたことはあるのか?」
「それが、一度もないんだ。あの友達は、俺が一人でいる時だけ現れるんだよ。他の友達と一緒に遊んでる時には絶対に現れなかった。だから、他の人にその存在を証明することもできなかったんだ。」
「それは…確かに不思議だな。今でも覚えてるってことは、相当強烈な体験だったんだろうな。」
「そうだね。結局、その友達は俺が少し大きくなって、一人で外で遊ぶことが少なくなった頃に、現れなくなった。でも、今でもたまに思い出すんだよ。あの時、俺が本当に誰かと遊んでいたのか、それとも何か別のものだったのか…」
友人はそう言ってコーヒーを飲みながら、遠くを見つめた。私もまた、その不思議な「友達」の正体に思いを馳せたが、答えは出てこなかった。
ファミレスの明るい雰囲気が、話のせいで少し薄暗く感じられる。何の前触れもなく現れ、静かに消えていく「友達」の存在――その正体が何であれ、確かに友人の幼少期に深く刻まれた記憶であることは間違いなかった。
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