僕は普通の会社員だ。仕事のストレスを解消するために、最近ハマっているホラーゲームがある。暗い街を舞台に、プレイヤーが恐怖と謎解きを繰り返しながら脱出を目指すという内容だ。ゾンビや幽霊が徘徊するその街は、細部まで作り込まれていて、プレイするたびに不気味な雰囲気に引き込まれる。
そんなホラーゲームが、僕にとっては一種の癒しとなっていた。仕事を終えてから家に帰り、電気を消して薄暗い部屋でじっくりとそのゲームに没頭するのが、最近のルーティンだった。
その日も平日、仕事が終わり、いつものように最寄り駅に降り立った。家に帰って、あのホラーゲームを進めることを楽しみにしていた。頭の中では、今晩クリアできるかもしれないと考えながら、駅を出た瞬間に違和感が襲ってきた。
「ん…?」
駅を出た時、何かが変だと感じた。普段見慣れたはずの街並みが、どこかおかしい。いつもの賑やかさや通りの雰囲気が消え失せ、薄暗くなっていた。街灯は弱々しく、建物の影はまるで夜の闇に溶け込むように伸びている。
「…なんだ、これ…」
瞬間的にデジャヴを感じた。この光景、どこかで見たことがある…でも、それがどこだったのかすぐには思い出せなかった。
歩き出してから、突然気づいた。
「これ…あのホラーゲームの街だ…」
僕は言葉を失った。目の前に広がる風景は、今まで毎晩プレイしていたホラーゲームの街そのものだった。ゲームの中で見ていた街のシンボルとも言える、古びた時計塔や、ひび割れた道路、錆びついたフェンスまでもが再現されている。
「まさか…そんなことあるわけない…」
心臓がドクドクと高鳴り、息が苦しくなってきた。周囲を見渡しても、そこにいるのはゲームの世界の住人たち。彼らは静かに歩き回っているが、その姿はどこか現実離れしていた。幽霊のように朧げな人影や、ゾンビのように不気味な姿をした者たちが、無表情で歩き回っている。
「ここは…ゲームの中だ…」
混乱しつつも、冷静に思考を整理しようとした。この街は、まさにホラーゲームで僕が何度もプレイしてきた場所だ。しかし、これは現実の世界。どうしてゲームの街に迷い込んでしまったのか、まったく理解できなかった。
恐怖で足が震える中、ゲームで培った記憶が頭をよぎった。ゲームの中では、この街から脱出するための方法があった。特定の場所にある隠し部屋に入ることで、恐怖から逃れることができるのだ。
「そうだ…あの隠し部屋だ…!」
僕は決意を固め、無理やり震える体を動かし、ゲーム内の隠し部屋に向かって走り出した。街の中を駆け抜け、異様な住人たちが無表情で僕を見つめる中、ゲームで覚えている場所を頼りに進んでいった。
やがて、廃墟となったビルの一角にたどり着いた。そこにある古びた鉄扉が、ゲームの中で隠し部屋に繋がっている場所だ。僕は扉を開け、中に飛び込んだ。
その瞬間、目の前が一瞬真っ白になった。
次に目を開けた時、そこは見慣れた自宅の前だった。先ほどまでいたホラーゲームの街ではなく、いつもの静かな住宅街に戻っていたのだ。
「戻った…」
息を整えながら、周囲を確認する。薄暗い街の風景も、不気味な住人たちの姿も消えて、ただの平日の夜の静かな町並みが広がっていた。
僕はしばらくの間、呆然と立ち尽くしていたが、確かに自分がホラーゲームの街へ迷い込んでいたことを思い出し、全身に寒気が走った。
「まさか、本当にゲームの中に入るなんて…」
現実に戻った安心感と、今まで経験したことのない恐怖が混じり合い、僕はその夜、ゲームを再開する気にはなれなかった。
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