怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

ドアノブの異変 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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私はこれまで、いわゆる「心霊現象」や「おばけ」などの体験はほとんどありませんでした。怖い話は好きですが、自分の生活には無縁だと思っていたんです。でも、一度だけ、妙に気味が悪くて、今でもふとした時に思い出す出来事があります。

それは、私が一人暮らしを始めてしばらく経った頃のことでした。賃貸のアパートで、特に古い建物でもないし、変わったこともなく、快適に過ごしていました。ただ、その頃から、ある日を境に、玄関のドアノブに違和感を感じるようになったんです。

最初は、些細なことでした。ある日、仕事から帰宅して玄関のドアを開けようとした時、ドアノブがほんの少し、冷たくなっているように感じました。「まあ、外は寒いし、こんなもんかな」とその時は気にしませんでした。

しかし、数日後、また帰宅時にドアノブを握った時、今度は妙に湿っているような感触がありました。触ってみると、濡れているわけでもなく、ドアに結露ができるほど寒いわけでもない。変だなと思いつつも、特に気にせずそのままドアを開けました。

でも、それからというもの、日に日にドアノブに触れるたびに何かが変だと感じるようになったんです。時には、ドアノブが少しずれているような気がすることもありました。私が締め忘れたのか、微妙に回転していたり、位置が変わっているような感じ。まるで誰かがドアを開けようとしていたかのような気配を感じました。

それでも、「気のせいだろう」と自分に言い聞かせていました。長時間働いて疲れているせいで、敏感になっているだけだと。でも、ある晩、仕事を終えて帰宅した時、玄関にたどり着いた瞬間、ドアノブがゆっくり回っている音が聞こえたんです。

「ガチャ…ガチャ…」

慌てて立ち止まり、じっと耳をすませました。ドアの向こう側から、明らかに誰かがドアを開けようとしているかのような音が続いていました。誰かがいるのか?不法侵入かと思い、恐る恐るドアを開けようとしましたが、音が急にピタリと止まりました。ドアをそっと開けると、部屋の中はいつも通り静まり返っていて、誰もいません。

その晩は少し怖くなり、しっかり鍵をかけて寝ましたが、気味の悪さは残りました。

その後も、玄関のドアノブに触れるたびに何かが変だという感覚は続きました。ドアノブは、時に冷たく、時に湿っぽく、まるで誰かがずっと触れていたかのような不気味さがありました。でも、それ以上の奇妙なことは起こらなかったので、気にしないようにしていました。

そして、ある日、部屋の模様替えをして、玄関近くに置いていた姿見を別の場所に移しました。それからというもの、ドアノブの異変はぴたりと止まりました。触っても冷たくないし、湿っている感覚もなくなりました。

姿見を移動したことと関係があるのかは分かりませんが、以来、ドアノブの違和感は一切なくなり、それっきりです。ただ、今でもたまに玄関を通る時、あのドアノブに触れる感覚を思い出しては、少しだけ背筋が寒くなることがあります。

何だったのかは分からないけれど、あれ以来、ドアノブに触れるたびに、あの不気味な感触を思い出してしまうんです。



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