怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

夏のリゾートバイトで出会った"最後のお客様"――誰もいないはずの部屋で 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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僕が大学2年生の夏、海辺のリゾートホテルでリゾートバイトをしていた時の話だ。場所は海沿いにある小さな町で、地元でも有名なリゾート地だった。夏休み中、観光客で賑わうそのホテルは繁忙期を迎え、僕たちバイトも毎日忙しく働いていた。

ホテルは、メインのビーチから少し離れた場所に建っていて、周囲は松林に囲まれ、静かな雰囲気だった。働いているスタッフもバイトが多く、毎日仕事の後はみんなで飲んだり、夜の海に出かけたりしていた。忙しいながらも、仲間と楽しく過ごせる充実した時間だった。

しかし、夏も終わりに近づき、観光客が少しずつ減ってくると、ホテル全体にどこか寂しい空気が漂い始めた。そんなある日、僕は夜勤のフロント業務を任された。普段は昼間の仕事がメインだったが、その日は夜勤スタッフが急遽休むことになり、僕が代わりに入ることになったのだ。

夜10時を過ぎると、チェックインするお客様もほとんどいなくなり、フロントは静まり返っていた。暇を持て余していると、突然、フロントの内線が鳴った。

「301号室です。タオルをお願いできますか?」少し弱々しい女性の声だった。僕はその時は特に疑問も抱かず、すぐにタオルを持って301号室へ向かった。

ホテルの廊下は、夜になると薄暗く、海風が窓越しに微かに響いている。301号室のドアの前に立ち、ノックをしたが返事はない。「おかしいな」と思いながらも、もう一度ノックし、声をかけた。

「タオルをお持ちしました。」だが、やはり返事はなかった。部屋のドアはロックされておらず、軽く押すとすぐに開いた。室内は薄暗く、カーテンが半分閉じられていたが、誰かがいる気配は感じられなかった。

「失礼します」と声をかけて部屋に入ると、ベッドの上には使われた形跡があり、窓際の椅子には何かが置かれていた。近づいてみると、それは古びた旅行カバンだった。だが、その部屋には誰の姿もなかった。

タオルをベッドの上に置き、少し不安な気持ちで部屋を後にしようとした時、ふと窓の外に目が止まった。窓の外、遠くの海の方をぼんやりと見つめる、白いワンピースを着た女性が立っていた。

驚いて、窓を少し開けて声をかけようとしたが、その瞬間、彼女の姿は消えていた。

僕は急いでフロントに戻り、同僚に「301号室のお客様が部屋にいないみたいなんだ」と相談した。だが、その話を聞いた同僚の表情が急に曇った。

「301号室……お前、今日は誰もあの部屋に泊まってないぞ」

「いや、でも内線がかかってきて……タオルを頼まれたんだ」と僕が必死に説明したが、同僚は困惑した顔で言った。「今日は301号室は空室のはずだ。お客様リストにも誰も入ってないし、内線がかかってくるはずがない。」

信じられなかった僕は、すぐに再び301号室に向かった。しかし、今度その部屋を訪れると、そこには誰の気配もなく、ベッドも整えられたままだった。あの旅行カバンも消えていた。

結局、あの夜に誰が301号室にいたのかはわからずじまいだった。

僕はあの日、確かに誰もいないはずの部屋からの電話を受け、そして誰もいないはずの部屋で何かを見た。リゾートバイトの最後の思い出が、あの恐怖の夜だったとは今でも信じがたいが、301号室のことは、忘れようとしても忘れられない記憶となっている。



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