出張で地方のビジネスホテルに泊まった時のことだ。その日は仕事が長引き、夜遅くにホテルに到着した。疲れ切っていた僕は、チェックインを済ませ、部屋に入るとすぐにシャワーを浴びて眠ろうと思った。
部屋は至って普通のビジネスホテルの一室。コンパクトだが清潔で、特に違和感もなかった。ベッドの横には小さなデスクがあり、その奥には洗面台が設置されている。鏡も大きくて、身だしなみを整えるには十分だ。
シャワーを浴び終え、洗面台で歯を磨こうとした時、ふと鏡の中に奇妙な違和感を感じた。鏡に映っているのは、もちろん自分の姿だったが、後ろの方に何かがある。何かが、映り込んでいる。
背筋が凍りついた。
鏡の中に映っていたのは、女性の顔。それは、悲惨な最期を遂げたかのように血にまみれ、痛々しい表情をしていた。その顔は、まるでこの世のものではないような不気味さを漂わせ、目だけが助けを求めるようにじっとこちらを見つめていた。
「…え?」
僕は一瞬、自分が何を見たのか理解できなかった。心臓がバクバクと早鐘のように鳴り出し、冷たい汗が背中を伝う。慌てて鏡から目を逸らし、深呼吸をした後、もう一度確認しようと鏡を見返した。しかし、今度は何も映っていない。そこにはただの自分がいるだけだった。
「見間違い…?」
そう自分に言い聞かせようとしたが、あの目の強烈な印象が頭から離れない。あの時、確かに僕を見つめていた。助けを求めるような悲しげな目。彼女が何者なのかもわからず、ただただ恐怖が募っていく。
どうしてもあの顔が忘れられず、鏡を見るのが怖くなってしまった。僕はすぐに洗面台のタオルを取って、その鏡全体を覆い隠すように掛けた。これで何も見えないはずだ、と自分を落ち着かせながらベッドに戻った。
だが、どれだけ疲れていても、眠ることはできなかった。鏡の中に浮かんだあの女性の顔が、目を閉じるたびに浮かび上がる。助けを求めるような視線が、どこまでも僕を追いかけてくるような感覚。
タオルで鏡を隠しているにも関わらず、彼女の存在が消えない。
一体何を見たのか、本当にあの女性は存在したのか、それとも僕の脳が作り出した幻覚なのか。今でもその答えはわからない。ただ、その日以来、ホテルの鏡を見るのが怖くなった。鏡には、何かが映り込むことがあるのかもしれない。こちらの世界ではない何かが。
あの夜、鏡の中で僕を見つめていた女性は、何を求めていたのだろうか。彼女が再び姿を現すことはなかったが、あの助けを求める目は、今も脳裏に焼き付いて離れない。
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