実家のクローゼットを整理していた時、思わぬものが出てきた。古びた電話帳だった。表紙はすっかり色あせ、ページもところどころ黄ばんでいる。懐かしさを感じながら、僕は何気なくその電話帳のページをめくり始めた。今ではスマホがあればすべて済むけど、昔はこんな分厚い電話帳で連絡先を調べたものだ。
ページをパラパラとめくっていると、あるページの一角に奇妙な番号を発見した。
普通の番号なら、市外局番から始まるはずなのに、電話番号なのかもわからないような不思議な数字の番号が並んでいて、明らかに他の番号とは違う。
「なんだこれ…?」
興味本位でその番号に電話をかけてみることにした。いたずら電話だったとしても、こんな古い電話帳に残っている番号だ。もう誰もこの番号を使っていないだろうと思いながら、スマホにその不思議な番号を入力して発信ボタンを押した。
数秒間、何の音も聞こえなかった。だが、次の瞬間、繋がった。
「はい、いらっしゃいませ。○○通販です。どういった商品をお探しですか?」
聞き覚えのない優しい女性の声が電話の向こうから聞こえてきた。
通販?昔の電話帳に載っていた古い通販の番号か?と思いながら、「すみません、この番号は何の通販なんですか?」と問いかけた。
「こちらでは、いろいろな商品を取り揃えております。例えば…」と、女性はスムーズに説明を始めた。
最初は普通の商品の説明が続いた。家具や日用品の名前が並んだが、突然、不自然な商品の紹介が始まった。
「次にご紹介するのは、時間が止まる懐中時計。お手持ちの時計を開けるだけで、周りの時間を数分間止めることができます。こちら、限定1つとなっております。」
耳を疑った。時間が止まる時計?冗談だろう、と思いながらも、電話の向こうは続けた。
「また、こちらは未来を映し出す鏡。毎朝、これを見ればその日の運勢や未来の出来事が映し出されます。」
「え?」僕は思わず声を上げた。「それ、本当に売ってるんですか?」
女性は穏やかに答えた。「もちろんです。どちらの商品をご希望ですか?」
どれも非現実的すぎる商品ばかりだ。まるでファンタジーの中のアイテムのような物が紹介されていく。試しに、少し冗談のつもりで「時間が止まる懐中時計を注文したいんですが…」と言ってみた。
すると、女性はスムーズに注文の手続きを進めていき、名前や電話番号を聞かれた。普通の通販のように感じていたが、最後に住所を聞かれた瞬間、女性の声が少し申し訳なさそうな声に変わった。
「申し訳ございません。そちらの世界にはお届けできません。」
「え…?こちらの世界?」
その言葉に、僕は背筋が寒くなった。こちらの世界?どういうことだ?
「どうしてですか?」と尋ねたが、女性は繰り返すだけだった。
「申し訳ございません。そちらの世界にはお届けできないのです。他の世界向けの商品ですので…」
その瞬間、全身に冷たいものが走った。僕がかけたのは、ただの古い通販の番号ではなかった。もしかして、別の世界に繋がっているのか。
意味がわからないまま、僕は慌てて電話を切った。心臓がドキドキと早鐘のように鳴っている。現実感がない会話だったが、確かに電話は繋がっていたし、僕はその女性と話していた。
あの不気味な番号は、何だったのか?そして、なぜ「そちらの世界にはお届けできない」などと言われたのか。考えれば考えるほど、答えが見つからず、ただ不安だけが募っていく。
もしまたあの番号に電話をかけたら、次は何が繋がるのだろうか。そんな思いに駆られ、後日、再度その番号に電話をかけてみた。だが、今度は「おかけになった番号は、現在使われておりません」という無機質な案内が流れるだけだった。
不思議な感覚に襲われながらも、誰かに話すこともなかったが、今でも心のどこかに引っかかっている。
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