診察室には穏やかな空気が漂っていた。決まり切った診察の質問を終えた後、患者がためらうように私を見つめた。
「先生、最近すごく不気味な夢を見るんです…」
私は彼の様子に気づき、優しく促した。
「どんな夢だったんですか?」
彼は少し緊張したように深呼吸をしてから、話し始めた。
「夢の中で、僕は真っ暗な廊下にいました。すごく長い廊下で、終わりが見えないんです。歩いても歩いても、ずっと同じ場所を歩いているような感じで……それがものすごく怖くて。」
彼の声には不安がにじんでいた。私は夢の内容を深く聞くために質問した。
「その廊下には、何か特別なものがありましたか?」
「両側にたくさんのドアが並んでいるんです。でも、そのドアはどれも同じで、開けるとまた同じ廊下に出てしまうんです。どのドアを開けても、結局は同じ場所に戻ってきてしまって……逃げ出せない感覚が強くて、息苦しくなるんです。」
彼の言葉には恐怖が込められていたが、さらに話を続けた。
「最初は、とにかくどこかに抜け出せるドアがあるんじゃないかって思って、一つ一つドアを開けてみたんです。でも、どれも同じ廊下なんです。壁も床も天井も真っ黒で、光源がないのに薄暗い光が差し込んでいるような感じで……すごく不気味でした。」
私はその不気味さが彼に与えた影響を理解しながら、彼の感情に焦点を当てた。
「その時、どんな気持ちが強く湧いてきましたか?」
「絶望感です。どれだけ進んでも出口が見えないし、どのドアを開けても同じ場所に戻ってくる……まるでこの廊下が無限に続いているかのような感じでした。どんどん怖くなって、でも、どうすればいいかわからなくて。」
彼はその時の感情を思い出すかのように、体を少し縮めた。
「誰か他に人はいましたか?何か他の物音や気配を感じたりはしましたか?」
「いえ、誰もいません。物音もなくて、ただ自分の足音だけが響いているんです。でも、その足音も、だんだん聞こえなくなっていく感じがして……まるで自分の存在が消えていくような感覚に陥りました。」
彼の話が進むにつれ、私はその夢が彼に与える不安や恐怖をより深く感じ取った。
「その廊下を進んでいる間、何かを探していたんですか?」
「探していたのかどうか……正直わからないんです。とにかく、出口を見つけたくて歩き続けていたんですが、気づくと歩く理由もわからなくなっていて……ただ、何かに追われているような、逃げなきゃいけないっていう焦りだけが残っていました。」
彼はその夢の中での混乱と焦りを感じていたようだ。私はその夢の深層に迫るため、さらに質問を続けた。
「夢の中で何か特に印象に残っている場面はありましたか?」
「一つだけ……途中で、ドアの一つを開けた時、誰かの影が見えたんです。すぐに消えてしまったんですが、それがすごく怖くて……それから急に背中に冷たい感覚が走って、誰かに見られているような気がしました。」
彼はその瞬間を思い出し、少し震えるように話し続けた。
「誰かがずっと僕の後ろをついてきているんじゃないかって思って、振り返ろうとしたんですが、体が動かなくなってしまって……それで、どうしようもなくなったところで、目が覚めました。」
彼の言葉を聞きながら、私はその夢がどれほど強烈で不気味なものだったかを実感した。
「その影や背後に感じた気配は、何かあなたの中にある不安や恐れを象徴しているのかもしれません。無限に続く廊下は、出口の見えない問題や、解決の糸口が見つからない不安を反映している可能性がありますね。」
彼は私の言葉に少し考え込んでいた。
「そうかもしれません……最近、仕事やプライベートで行き詰まっている感じがして、何をしても抜け出せないような気がしていて……もしかしたら、それが夢に現れているのかもしれないですね。」
診察室を後にする彼の背中を見送りながら、私はその夢の不気味さが頭から離れなかった。無限に続く廊下、出口のない状況、そして誰かに見られているような気配――それらは、彼の心の奥底に潜む恐怖と向き合わなければならないというメッセージかもしれない。
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