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果てしなく続く階段…心療内科で語られる終わりなき夢の恐怖 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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診察室には静かな音楽が流れ、空気はいつも通り穏やかだった。しかし、今日の患者は明らかに緊張している様子だった。診察の質問が一通り終わった後、彼はため息をつき、話し始めた。

「先生、最近、少し怖い夢を見るんです。」

私は彼に促すように尋ねた。

「どんな夢だったんですか?」

彼は少し考え込み、落ち着いた声で話し始めた。

「夢の中で、ずっと階段を登り続けているんです。それも、終わりが見えないくらいの長い階段です。登っても登っても、上にたどり着けないんです。ずっと上に向かって歩いているんですが、終わりがなくて、ただ永遠に続いていく感覚がして……すごく不安になるんです。」

彼はその夢のことを思い出すと、不安そうに肩をすくめた。私はその不安に寄り添いながら、続けて質問した。

「階段を登っている時、何か特別な出来事が起きたり、気になることがありましたか?」

「それが……何も起こらないんです。ただ、静かに階段を登り続けているだけで、他には誰もいないんです。音もなく、周りの景色もなくて、ただ僕と階段だけが存在している感じです。」

彼はその夢の中で感じた孤独感や無意味さを振り返りながら話を続けた。

「階段自体は、普通の階段なんです。壊れているわけでもなく、ただどこまでも続いているだけ。でも、どれだけ登っても、頂上にたどり着かなくて……途中で、『もう限界だ』と思っても、足が勝手に動いてしまうんです。止まりたくても止まれない。永遠に登り続けなきゃいけないんだ、っていう感覚に囚われていて……。」

彼の話を聞きながら、その夢が彼に与える恐怖や絶望感を感じた。私はその感情に焦点を当てて尋ねた。

「その夢の中で、一番強く感じたのはどんな感情でしたか?」

「絶望感です。ゴールがないのに、登り続けなければならないっていうプレッシャーがすごくて……足を止めたくても、何かが背中を押しているように感じてしまうんです。でも、その背中を押しているものが何なのかもわからない。ただ登り続けるだけで、どんどん疲れていくんです。」

彼はその時の体験を思い出し、さらに言葉を続けた。

「振り返っても、下にも終わりがないんです。だから、もう進むしかなくて……いつかは頂上にたどり着けるんじゃないかって思って登っているんですけど、何も変わらない。『一体何のために登っているんだ?』っていう疑問が頭に浮かんできて……でも、やめられないんです。」

私はその無限に続く状況に対する彼の苛立ちや恐怖を理解し、さらに彼の内面に迫る質問を投げかけた。

「その夢の中で、頂上にたどり着けないと感じた時、何か気づいたことはありますか?」

彼は少し考え込み、ゆっくりと答えた。

「そうですね……夢の中では、とにかく焦りと疲れが強くて、でもそれに意味がないように感じたんです。何を目指しているのかもわからないし、ただ登ることが目的みたいになっていて。終わりがないことをわかっているのに、それでも止められないという、その感覚が怖かったんです。」

彼はその時の感情を思い出し、少し目を伏せた。

「いつも、この夢から目が覚めた時は、すごく疲れているんです。体は動いていないはずなのに、まるで現実でもずっと歩き続けたかのように疲れていて……何かに追い詰められている気分になります。」

私は彼の話を聞きながら、その夢が彼にとってどれほど重いものなのかを感じ取った。

「もしかすると、その無限に続く階段は、あなたの現実で感じているプレッシャーや、果てしなく続く不安を象徴しているのかもしれませんね。何か達成すべき目標があるけれど、それが遠すぎて見えない……そういった状況を映し出している可能性があります。」

彼は私の言葉を聞いて、しばらく黙り込んだ。

「そうかもしれません……最近、仕事でもプライベートでも、ずっと何かを追い続けているような気がしていて……でも、それがどこに向かっているのか、何のためにやっているのかがわからなくなってきているんです。もしかしたら、その気持ちが夢の中で形になっているのかもしれませんね。」

診察室を出る彼を見送りながら、私はその夢が彼の心に何を訴えかけているのかを考え続けていた。無限に続く階段、果てしない努力、そして終わりのないプレッシャー――それらは彼が現実で感じている重圧を映し出しているのかもしれない。



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