出張先でのことだった。その日、仕事を終えて、いつものようにビジネスホテルに宿泊した。地方都市にある小さなホテルで、設備は古いが清潔で、何度か利用したことがある場所だ。疲れていた僕は、部屋に入るなりシャワーを浴びてベッドに倒れ込み、そのまま眠りについた。
眠りは深かったが、妙な夢を見た。
夢の中で僕は、ホテルの洗面台の前に立っていた。鏡に映っているのは、もちろん自分の顔だったが、よく見ると、顔が少しずつ歪み始めたのだ。最初はほんの少し、気のせいかと思う程度だった。しかし、次第に変化は大きくなり、目が異常に大きくなり、口が不自然に裂けていく。頬が垂れ、顔全体の形が崩れていくその様子を、僕はただじっと見ていた。
恐怖が込み上げてきた。顔が変わっていくのに、何もできず、ただ鏡の前に立ち尽くしている。心臓がドキドキと早鐘のように鳴り、冷や汗が背中を流れた。だが、声を出すことも、鏡から目を離すこともできないまま、僕はその醜く歪んでいく自分を見続けるしかなかった。
突然、はっと目が覚めた。寝汗で体中がべっとりと湿っている。頭がぼんやりとしていたが、時計を見ると深夜3時を少し過ぎた頃だった。嫌な夢を見たせいで目が覚めたのだ。夢だったとわかっていても、まだ胸の鼓動は早かった。
「もう一度寝よう」と思ったが、喉が渇いていたので、水を飲もうと起き上がり、ついでにトイレにも行くことにした。
トイレを済ませた後、洗面台で手を洗っていると、ふと鏡に目が向いた。何気なく、自分の顔を見た瞬間、心臓が止まりそうになった。
夢と同じ光景が、目の前に広がっていたのだ。
鏡に映る僕の顔が、またしてもゆっくりと歪んでいく。目が不自然に大きくなり、口が裂け、顔全体が醜く崩れ始めた。僕は瞬きをし、もう一度鏡を凝視したが、その歪みは止まらない。夢と同じ感覚が蘇り、恐怖に足がすくんだ。まるで、夢が現実になっているように感じた。
「これは…夢だ…よな…?」自分に言い聞かせたが、現実感が強すぎる。慌てて顔を洗おうと手を水に浸したが、ふとした瞬間に鏡の中の自分が微かに動くのが見えた。
その動きが、僕の動きと少しだけずれていた。
全身に寒気が走り、もう一度瞬きをして鏡を確認した。すると、いつもの自分の顔が、そこに映っていた。
「寝ぼけていただけだろう…」
そう自分に言い聞かせたが、心の中では不安が消えなかった。夢と現実の境界が曖昧になってしまったような感覚。鏡に映る顔はもう普通に戻っていたが、あの「歪んだ顔」が目に焼き付いて離れない。
本当にただの夢だったのか?寝ぼけていただけだったのか?
その夜、もう一度眠ることができたが、翌朝、目が覚めると再び鏡を見るのが怖くて仕方なかった。歯を磨く時も、顔を洗う時も、あの鏡に映る自分がまた歪んでいくのではないかと、ずっと不安がつきまとった。
夢と現実が交差するあの奇妙な感覚は、二度と体験したくない。
それが本当に夢だったのかどうか、今でも答えは出ないままだ。
■おすすめ
マンガ無料立ち読み
1冊115円のDMMコミックレンタル!
人気の漫画が32000冊以上読み放題【スキマ】
ロリポップ!
ムームーサーバー
新作続々追加!オーディオブック聴くなら - audiobook.jp
ページをめくってゾッとする 1分で読める怖い話 [ 池田書店編集部 ] 価格:1078円 |